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会員 尾林賢治
米中両国が初めて足並みをそろえ北朝鮮に対し核実験およびミサイル発射実験を中止するよう最大限の圧力を強めている。
米国は米韓軍事演習に加え原子力空母打撃団派遣などの砲艦外交で威嚇、中国はトランプ米大統領から貿易不均衡と絡めたディール(取引)で北朝鮮を説得する役割を担うよう迫られ、自身も北朝鮮の核の暴走を警戒しなければならない状況に追い込まれている。
トランプ大統領は5月1日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談を提案、意外な展開が起きるかもしれない。
北朝鮮は朝鮮人民軍創設85周年の4月25日、6回目の核実験を実施するのではないかとみられていたが、過去最大規模の火砲発射演習に留めた。だが、国連安保理が北朝鮮に対する新たなより強力な制裁を討議した翌29日、再びミサイル発射実験を強行した。実験は失敗に終わったが、
相変わらず「レッドライン」の瀬踏みを続け、米中の威嚇に屈しない姿勢をみせる。一触即発で朝鮮戦争の再発にもエスカレートしかねない事態は長引き、「制御不能になる恐れがある」(中国の王毅外相)危機が高まる。この“グレート・チキンゲーム”とも言える米中朝間の危険な心理戦はいつまで続くのか。
3月1日から4月30日まで実施した米韓合同軍事演習は米軍29万人、韓国軍9700人が参加、両軍31万7千人が参加した前年に匹敵する最大級の規模だった。2011年、パキスタンの隠れ家に潜んでいたアルカイダの指導者ビンラディンを殺害した米海軍の特殊部隊シールズの「チーム6」が参加、北朝鮮の指導者を狙う「斬首作戦」の演習も含まれており、あらゆる軍事オプションを展開できる態勢を北朝鮮にアピールした。これより前、2月中旬にはソウル北方でWMD(大量破壊兵器)関連施設を探索、破壊する演習も済ませ、金正恩朝鮮労働党委員長を刺激するメニューがそろっている。
米トランプ政権は「レッドライン」、越えてはならない一線を越えたら「あらゆる選択肢はテーブルの上にある」と先制攻撃も辞さないと警告、米韓合同軍事演習に加えて、「力による平和」実現を目指し、今回さらに以下の3重の威嚇行為を展開した。
まず第1は、前オバマ政権と異なり、トランプ政権が世界の警察官の座に返り咲き、北朝鮮に対し単独軍事行使をためらわない姿勢をみせつけたことだ。
4月7日、シリアに対してアサド政権が3日に北西部で化学兵器を使用したとして、地中海東部に展開する駆逐艦2隻から59発の「トマホーク」巡航ミサイルを中部ホムス近郊のシュアイラート空軍基地に向けて発射した。続いて13日、アフガニスタン東部のヒマラヤ山中の地下トンネル基地を拠点に活動する過激派組織「イスラム国」(IS)をめがけ、大規模爆風爆弾「モアブ」(MOAB)を投下、戦闘員94人を殺害した。「モアブ」は核兵器を除けば最大級の破壊力を持ち、地下施設の破壊に適している。北朝鮮は地下要塞を拡充、ミサイルも地下豪に格納しているが、地下要塞に隠れていても、MOAB投下で安全ではなくなったという警告を発した。
オバマ米前大統領は、シリアが化学兵器を使用したら「レッドライン」だと宣言しながら、2013年「米国は世界の警察官ではない」と化学兵器を使用したシリアへの軍事介入を見送った。以来、ロシアはクリミアを併合、中国は南シナ海の島嶼を埋め建て軍事基地化を進め、尖閣諸島付近の海域への艦船の派遣を増やしている。トランプ大統領の6日間に2度にわたる武力行使は、米国が再び「世界の警察官」の復帰したことを世界に強く印象づけた。しかも、いずれの武力行使も国連にはもちろん、同盟国のいずれにも事前の相談もしなかった。前政権の対外不介入主義から決別、米国だけの判断で動く一国単独行動主義の復活でもある。当然、これは北朝鮮に対する圧力になる。