NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

スコットランドのジレンマ

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

日本のメディアでも報道されていたけれど、3月13日(月曜日)にスコットランド自治政府のニコラ・スタージョン第一大臣(首相にあたる)が、2014年に続いてスコットランドの独立を問う二度目の国民投票(indy ref 2)を来年(2018年)秋もしくは2019年春に実施する意図であることを発表しました。スコットランドで国民投票を行なうには、ロンドンの中央政府による許可が必要なのですが、メイ首相はスタージョンの発言について下院で演説し、

今こそ国が団結して英国民の意思を尊重し、国民のためにより良い英国、より明るい未来を持った英国を作るときだ
It is a moment to bring our country together, to honour the will of the British people and to shape for them a better, brighter future and a better Britain.

として、スコットランドの国民投票については「政治ごっこをしている場合ではない」(This is not a moment to play politics)と批判しています。理屈の上ではメイ首相はこの国民投票を許可しないことが可能なのですが、それをやるとスコットランド人の反発が厳しくなり、自分の政権運営にも支障をきたしかねないということです。

この国民投票のタイミングについて、スタージョンがなぜ来年秋とか再来年の春を言いだしたのか?それは英国のEU離脱のタイミングに関係しています。英国政府は今月末までにEUに対して正式な離脱通告をすることになっており、その後2年間を使って離脱にまつわる様々な条件交渉を行うことになっている。その交渉の期限が2019年3月末だからです。スタージョンとしては、英国のEU離脱の条件が明らかになった時点で、そのまま英国に留まるか、独立してEU加盟を目指すかを決めたい・・・というわけで、それを考えるとこのようなタイミングになるであろうということです。

スコットランドのUK離脱については前回の記事でも触れていますが、スコットランドの新聞、The Scotsmanのサイト(3月15日)に出ていた世論調査によると、スコットランド人の心境はかなり複雑です。UKからの独立についてはかなりの支持率なのですが、同時にEUに対する懐疑的な声もまた高くなっているのだそうです。「独立=EU加盟」という世論ではないようなのです。

この世論調査はNatCen Social Researchという、英国内では最高の信頼度を誇る社会調査機関が行なったものです。それによると、UKとの関係について「独立」(independence)支持が46%、「自治政府」(devolution)支持が42%、スコットランド議会そのものに反対が8%となっている。独立支持が46%というのは、独立促進運動が始まった2012年当時の23%に比べると倍の支持率にまで上がっているということを意味します。これを若年層(16~24才)に限ると独立支持が72%と高くなっている。

ただ同じ調査の結果として、25%が英国のEU離脱を支持し、42%がEUの権限縮小を望むという数字が出ている。つまり67%のスコットランド人がEUに対して懐疑的な感覚を持っているということになる。3年前にはこの数字が53%であったことを考えると、懐疑論者が増えているということになる。

英国のEU離脱に関する国民投票では6割以上のスコットランド人が離脱に反対したにもかかわらず、イングランドで離脱が勝ってしまったが故に「スコットランドの民主的な意思が無視された」という意味ではUKからの独立志向は高いのですが、それが必ずしもEU支持と同じではないというところが複雑であるわけです。

2017年3月19日 up date

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