NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

Brexitの次はScoxit?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

英国がEUを離脱するのはBREXIT、ではスコットランドが英国(United Kingdom)から「独立」することは何というのか?2月18日付のThe Economistによると “Scoxit” というらしい。読み方は「スコクジット」かな?EU離脱についての昨年(2016年)の国民投票は、英国全体では51.89%対48.11%で離脱派が勝利したけれど、スコットランドでは62%:38%で「残留」票の方が多かった(イングランドは53.4%:46.6%で「離脱」が勝利)。スコットランド人の中には、自分たちはEUに残留したいのに、イングランド人たちが離脱したいという理由だけで無理やりEUを離れなければならないのは不公平であると考える人たちも多くいる。同じことが北アイルランドについても言える。

 

だったら「英国」(UK)から独立、スコットランドという国としてEUに加盟しよう・・・というわけで囁かれているのが2014年に実施して否定されたスコットランド独立に関する国民投票の再実施です。この場合、「国民投票」と言ってもスコットランド人だけが行うものなのですが、2014年に実施したときは55.3%対44.7%で独立反対派が勝利したのですよね。

3年前に国民投票を実施して「独立」を呼びかけたのはスコットランド民族党(SNP)で、現在も政権の座にあるのですが、独立投票を再びやるのは当面は難しいとされてきた。二度目の投票を実施して敗れるようなことがあったらスコットランド独立の夢は当面は消滅すると言われていたからです。が、The Economistによると、スコットランド政府はすでに国民投票の実施に向けて法案を準備しており、世論調査などでも独立を支持する声が高いそうなのです。

実は前回の国民投票の際、キャメロン首相(当時)を始めとする独立反対派は、その理由の一つとして、「英国」の一部として残らないと、独立・スコットランドのEU加盟は困難だろうという議論を展開した。その理由として、UKから離れたスコットランドのEU加盟には、カタロニア地方の独立という問題を抱えたスペインが強硬に反対するであろうということが挙げられていた。ところが昨年のEU離脱に関する国民投票の結果、スコットランドは望んでもいないEU離脱を強制させられることになった、あのとき独立しておけばEU離脱を強制されることもなかった、というわけです。
ただ・・・それではスコットランド政府がすぐに独立を問う国民投票を行なうか?というと、必ずしもそうではない。その理由は、最近のスコットランド経済の成長がかつての勢いを失っているということです。「過去5四半期のうち2四半期において成長がゼロという状態にある」(In two of the past five quarters it has failed to grow at all)というのですが、その主なる理由はスコットランド経済が頼りにしているエネルギー(石油・ガス)と金融という二つの業界の不振がある。前者は北海油田における石油・天然ガスからの収入なのですが、3年前の2014年の原油価格が1バレル110ドルであったものが、いまでは55ドルにまで下落、税収も当初期待していた年間83億ポンドの1%にも届かないのではないかとさえ言われている。北海における石油やガス生産に伴うビジネスで盛んだった首都・エジンバラの金融業界も昨年の平均給与が5%下がるなどしてあまり明るい話題はない。

スコットランドの人口は500万、そのような国にとって二大主要産業が不振というのでは、UKからの独立も危険な賭けとなってしまう。が、ややこしいのは、EU離脱については単一市場へのアクセスも求めないという強硬離脱の路線を進む「英国」に残るよりは、独立してEUに加盟した方がスコットランド経済にとっては得策という考え方も成り立つということです。ただ仮にEUが独立スコットランの加盟を認めたとすると、現在イングランドとスコットランドの境界線になっているところは、本当の意味での「国境」ということになる。となるとスコットランドからイングランドへの「輸出」にも関税がかけられることになる。現在のところスコットランドからイングランドへの「輸出」は、対EU輸出の4倍に上っているのだそうですね。

2014年の独立をめぐる国民投票のときにUKに残る方に投票したスコットランド人は、主として経済的な損得を考えて「残留」を選んだ。UKの一部であり続ける限りEUへの市場アクセスは確保されていた。そのUKがEUの一部ではなくなる。だとすると、いつまでもUKと一緒にいる必要性も薄れる。いっそEUと一緒にいることを選んだ方がスコットランドの将来にとって賢明なのではないか?という思いがある。でも、その一方でUK全体のGDP成長率(2015年10月~2016年9月)が2.4%であるのに対してスコットランドのそれは0.7%だったことを考えると、やはりUKの一部であり続ける方が得策かも・・・ということにもなる。

まあ、常識的には300年以上も一緒にやってきたUKから独立することのリスクを考えてしまうけれど、そのUKがEUの一員であることを拒否したのは、自分たちが選んだわけではないリーダーたちによって、自分たちの運命が決められてしまうことへの反発が原因であったとするならば、同じことがスコットランドとUKの関係についても言える、とスコットランド人が考えたとしても不思議ではない。The Economistの記事は

BREXITによってスコットランドの独立はより害の多いものになってしまったけれど、可能性はより高くなったともいえる・・・そのことは警戒すべき事態であると言える。
The alarming result is that Brexit has made Scottish independence more harmful – and more likely.

という結論になっている。つまりUKからの独立はスコットランドにとって利益にはならない、にもかかわらずそちらの可能性が高くなっている・・・実に奇妙な状態であるわけです。

2017年3月8日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ