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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
アメリカの選挙でドナルド・トランプが勝利したことについて、その意外性という点で英国のEU離脱と似ているというわけで、この2つを比較する記事がいろいろなサイトに出ています。大体において、「トランプもBREXITも低所得の白人労働者層の支持を受けた」という感じのものが多いと思う。
例えば11月9日付のNew York Timesは 「BREXITがアメリカで起こることの前兆だったのだ」(Brexit Proved to Be Sign of Things to Come in U.S.)という見出しの記事を掲載しており、英国の識者のコメントがいくつか載っている。
国際問題研究所(Chatham House)のロビン・ニブレット氏は、フロリダの有権者の言葉として「我々は自分たちの国を取り戻したいのだ」(wanted our country back again)というのを聞いたときに「全く同じ言葉がEU離脱を進める英国人の間でも聞かれた」と言っている。確かにそうでした。またストラスクライド大学(グラズゴー)のジョン・カーティス教授はBREXITとトランプ勝利の共通項として「階級差」を挙げている。即ち、一方に「リベラルで教育があり若い」(the liberal, the educated and the young)有権者がおり、もう一方に「高齢で学歴が低い」(the older and undereducated )人たちがいるという構図です。前者が「EU残留・クリントン支持」であり、後者は「BREXIT・トランプ支持」というわけです。これについてはむささびジャーナル340でも触れています。
ただ、むささびが最も惹かれたのは、ロンドンの書評誌LRB(London Review of Books)の11月9日付のサイトに出ていた“Insubstantial Champions” というタイトルの短いエッセイだった。書いたのはジェームズ・ミーク(James Meek)という英国の著述家です。
ミークが語っているのは、BREXIT後の4か月間に英国で起こっていることなのですが、同じことがアメリカでも起こるかもしれないというハナシです。6月の国民投票で「残留」に投票した人たちが、いまでも口を極めて叫んでいるのは、如何に離脱派が間違っているかということばかりで、EUという機構を育てていくことの大切さについては余り語られないということです。ミークの観察によると、これが大統領選直後のクリントン支持者に当てはまる。すなわち
クリントンに投票した人たちは、ヒラリーを愛する理由よりもトランプを憎む理由を見つける方が簡単であると思っているようなのだ。
Clinton voters seem to find it much easier to find reasons to hate Trump than to love Clinton.
というわけです。トランプを嫌うことは簡単にできるのに、ヒラリーに「いいね!」のボタンを押すことがなぜそんなに難しいのか?というわけです。英国について言うならば、EU残留支持者は離脱派を非難してばかりいないで、もっと情熱的に(passionately)ヨーロッパについて語ってもいいはずだということです。ヒラリーの支持者たちは、トランプの保護主義に反対するのなら自由貿易支持のデモ行進でもやるべきであり、EU離脱という結果が覆るかどうかはともかく、残留を主張した英国人は町へ出て声をあげるべきだと言っている。ちなみに筆者のジェームズ・ミーク自身はEU離脱に反対しています。