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国際問題コラム「世界の鼓動」

BREXITが勝利した日:ドイツからの声

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

6月24日(英国のEU離脱が決まった日)付のドイツの週刊誌、シュピーゲル(Der Spiegel)の英文版が社説で英国のEU離脱について語っています。見出しは

自分たちがヨーロッパを愛さない限り、我々はヨーロッパを失うのだ
If We Don’t Love Europe, We Will Lose It

となっており、書き出しは次のようになっています。

英国人たちはEUを去るという投票をした。それは民主的に決めたことであり、我々は英国を失うという現実を受け入れる以外に選択肢はない。が、今こそ覚悟を決めるときでもある。それはEUというものについて、これまで以上に情熱的にならない限り、我々はそれを失うだろうということだ。
The Brits have voted to leave the EU. It was a democratic decision and we have no choice but to come to terms with the loss. But it’s also time for a reckoning: If we don’t become more passionate about the European Union, we will lose it.

シュピーゲルによると、離脱派の勝利は「感情が事実に勝ってしまった」(A Victory of Emotion over the Facts)ものなのだそうです。今回の「離脱か残留か」の騒ぎには最初から感情的・感覚的なアンバランスのようなものがあった。即ち離脱派には「誇り高い国民」(a proud people)の感情に訴えるメッセージがあった。それは「ブラッセルでのさばっている無表情な官僚たちが支える組織など放り出して英国の主権を取り戻そうではないか!」というものだった。

それに対して残留派(Remain)はどのように反論したのか?EUを抜けたら英国経済がダメになるという「面白くもなんともない事実」(prosaic facts)を並べ立てるだけだった。統合されたヨーロッパこそが世界での競争に勝てる・・・言っていることは間違ってはいないけれど、離脱派のスローガンに比べれば、どこかクールで抽象的ではあった。”Remain” という彼らのスローガンからしてどこか「受け身」(passive)だった。

英国の離脱を契機にヨーロッパのあちこちで同じような国民投票を呼びかける動きがある。それに対しては「これ以上英国のような動きを許してはならない」という声が高いのですが、シュピーゲルは、英国の例に習おうとする者に対しては懲罰的な態度で臨むのは建設的とは言えないと主張している。罰を受けるのが怖いから残るというのでは長続きもしない、と。

で、これからのEUはどうあるべきなのか?

英国は去ったのだ。苦々しいけれどそれは認めなければならない。彼らはそれを民主的に決めたのだから尊重されなければならない。要するに本日から英国はEUの未来にとって重要な存在ではなくなったということなのだ。
The British are gone and that is a bitter realization. But the decision to leave the European Union was also a democratic one and must be respected. As of today, Britain is no longer important to the future of the EU.

シュピーゲルは、これからのEUはこれまで以上に民主的で透明度が高く、官僚的でない機構にならなければならない・・・と、そこまでは明白な話だ(that much is clear)としながらも

より重要なことは、国レベルの話以上に強靭なヨーロッパ精神を創り出すことだ。
More importantly, a European spirit must be created that is stronger than any national narrative.

と主張します。ドイツも含めて最近のヨーロッパではEUというものに対する情熱(pathos)のようなものが失われてしまったように見える。EUの存在理由として、創設者たちが持っていた反戦思想だけでは十分でなくなったという声がある。いわゆる自由貿易というのも十分なものではない。いまさら「経済共同体」の確立をじっと待つという人もいないだろう、というわけです。

そしてシュピーゲルは、これからもEUの存在し続ける唯一の正当な理由(a single justification)があるとするならば、それは「ヨーロッパの統一」(European unification)という発想であると主張します。すなわち多種多様な国々がお互いにより深く連携しあうということ。長続きする平和を保障できるのはそのような発想しかないのだということです。過去70年間、ヨーロッパを舞台にした戦争はなかった。しかしだからと言って、二度と起こらないだろうなどと考えるのは間違いだ、現に各国でナショナリズムの台頭が見られるではないか、そのような思想がヨーロッパを解体させ、再び戦争に繋がっていくのだ、と言っている。

自分たちの国以外のことを考慮に入れることは簡単なことではないけれど、英国による離脱を契機に、残った加盟国は「ともにある」(standing together)ということが何故大切なのかを認識しようではないか、とシュピーゲルは訴えます。そして

もし我々がそのような意識の変革に成功した暁には、英国のEU離脱は(EU加盟国にとって)ちょっと気には障るけれど、結局それでよかったという類のショックで済まされることになるだろう。
If we can succeed in this change of consciousness, then Brexit will turn out to be no more than a bothersome yet benificial shock.

と結んでいます。

2016年6月28日 up date

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