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国際問題コラム「世界の鼓動」

シリーズ・海外渡航と医療⑦

海外渡航時の感染症対策-旅行者下痢症を中心に

五味 秀穂 (財)航空医学研究センター所長

五味 秀穂
(財)航空医学研究センター所長

海外渡航で経験する最も多い症状は「下痢」である。特に渡航5日以内に発症するものを「旅行者下痢症」と呼び、開発途上国では生水や生ものを摂るのに注意を要する。他に冷えや旅のストレスも原因となる。海外出張や旅行において、渡航先の感染情報や医療情報を事前に入手することを勧める。

海外出張も含めて、海外への渡航者の増加に伴ない、渡航先でいろいろな疾病に罹患する例は少なくない。特に感染症は渡航者にとっては切実な問題となっている。また海外旅行では水や食べ物が合なかったり、生活スタイルが変わることによって、「下痢」を起こすことが良く見かけられる。

そこで本編では水や食事から感染する病気、特に「旅行者下痢症」を中心に、患者さんへのアドバイスを行う際、或いはご自身か海外に出かける際の参考としてその対策を述べてみたい。

Ⅰ.水・食事から感染する病気

水や食事から感染する主な疾病は表①に示した。各疾病についての詳述は割愛するが、開発途上国などで生水や生ものを食べることは、依然リスクが高いと言わざるを得ない。WHOから推奨されている予防法を表②に示す。 ※表・図はクリックで拡大されます。

表1 水・食事から感染する主な疾病の原因と症状

表1 水・食事から感染する主な疾病の原因と症状

 

表2 WHOから推奨されている予防法

表2 WHOから推奨されている予防法

Ⅱ.旅行者下痢症

① 海外旅行での下痢症の特徴
図①に成田空港検疫所での有症者申告数(平成16年の年間申告数)を示したが、やはり下痢症状を訴える数が一番多い。旅行者下痢症の特徴は、「目的地到着後ほぼ5日以内に発症すること」で、旅行滞在期間が短い場合には、帰国後に発症する場合もある。その発生頻度は海外旅行者の30〜50%と言われている。

図1 成田空港検疫所での有症者申告数

図1 成田空港検疫所での有症者申告数

② 原因

原因として最も多いのは飲食物である。飲食物は「赤痢菌やコレラ菌などの細菌」「ノロウイルスなどのウイルス」「原虫」などのさまざまな病原体に汚染されていることがあるためである。特に東南アジアや南アジア、アフリカなどの熱帯や亜熱帯地域に旅行した際、飲食物を原因とする下痢が起こり易いと言われている。
特に注意したい飲食物は、下記のようなものである。
▶ 生水(表②参照)
加熱処理されていない水のことを一般に言い、病原体に汚染されている可能性がある。また海外の水道水や井戸水には、石灰やマグネシウムなどのミネラルを多く含む硬水が多く、軟水に慣れた日本人は下痢を起こすことがある。
このような生水で作った氷や、その氷を入れたジュースなどの飲み物にも注意を要する。
▶ 乳製品(②参照)
牛乳の殺菌基準が日本より緩やかな国が多く、また殺菌されていない絞りたての牛乳を使ってヨーグルトやアイスクリームなどの乳製品を作っている場合もあるため、乳製品にも注意が必要である。
▶ 生野菜やカットフルーツ(表②参照)
下肥で栽培したり、洗浄する水が汚染されていることもある。また野菜や果物を切る包丁やまな板が汚染されている場合もあるので、生の青果物には注意を要する。
▶ 生の魚介類(表②参照)
細菌や原虫に汚染されていることがある。川魚には寄生虫が多いので、特に注意が必要である。
▶ 生肉
ウイルスや細菌に汚染されていることがある。

飲食物以外の原因としては下記のものがある。
▶ 暴飲暴食
海外ではつい食べ過ぎになることが多く、また油分の多い料理を食べ過ぎると下痢をし易くなる。
▶ 冷え
ホテルやレストランの冷房が効きすぎていると、下痢を起こすことがある。
▶ストレス
海外旅行では不安や緊張感を抱く場面が多く、また過密スケジュールで時間に追われることもあり、このようなストレスで下痢になることがある。

③ 症状と治療

まずは症状によって軽症か中等症〜重症を見分け、その場で対処するか医療機関にて治療を行うかを見分けることが大事である。重症度について表3に示した。
軽症の多くは、発熱しても38℃以下で、1-2日で治るがこの場合はあまり心配が要らない。しかし「高熱が出る、3日以上下痢が続く、便の色が変わる、便に血液が混じる」などの場合には、コレラや赤痢などの感染症も考えられるため、直ぐに医療機関を紹介し、検査と治療を受けることが必要となる。
治療の基本は、まず安全な水を確保し、脱水予防のために水分補給をすることである。更なる治療については表4に示した。

表3&4 旅行者下痢症

表3&4 旅行者下痢症

④ 予防

Ⅱ-②で述べたように、まずは飲み物・食べ物に注意をして頂くこと。当たり前だが石鹸を使っての手洗いの励行も、特に子供の場合はきちんと洗っているか周囲の大人の注意が必要となる。旅行のハードなスケジュールの場合は、途中観光には出かけず休養に当てることも時には必要となる。
この他日本から持って行く事を推奨する物に、小型湯沸かし器(海外用)、粉末の糖電解質飲料(スポーツ飲料)、胃腸薬(消化薬・整腸剤・時に止痢剤)、梅干・塩昆布のような物がある。まずは安全な飲料水を用意してから、これらの物を活用して頂きたい。

最近では旅先の感染症情報や医療情報を事前に入手しておくことが大切で、下記のようなHPから情報を手軽に入手できる。旅先では大使館の領事館に問い合わせることもできる。

厚生労働省検疫所 http://www.forth.go.jp/
国立感染症研究所感染情報センター http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
外務省・渡航関連情報 http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/index.html
海外勤務健康管理センター http://www.johac.rofuku.go.jp/
世界保健機構 WHO(英語) http://www.who.int/ith/

 

最後に、帰国時に下痢が続く場合は必ず空港検疫所を受診するようにして頂きたい。さらに医療機関を受診する際にも、必ず渡航歴を申告して頂きたい。

2016年6月13日 up date

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