NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

伊勢志摩サミットーーアジア・日本の安全保障強固に

会員  尾林賢治

米国の「アジア・リバランス(再均衡)」政策を再確認

8年ぶりに世界の首脳が日本に集まった伊勢志摩サミットを成功裏に開催できたことは、アジア太平洋地域と日本の安全保障を強固にするのに大いに貢献するだろう。

5月26~27日開催した伊勢志摩サミットは、先進7カ国の首脳と新興7カ国首脳が一堂に会し、経済問題に加え、海洋安全保障を討議、「東シナ海および南シナ海における状況を懸念し、紛争の平和的管理および解決の根本的な重要性を再確認する」と中国を念頭においた厳しい首脳宣言を打ち出した。この日本に2008年の洞爺湖サミット以来、初めて先進国だけではなくアジア、アフリカの世界の首脳が集まり、ここ数年の中国の力による海洋領土拡大行為に対する現状認識を共有し、問題意識を深め、中国に対し国際法に基づく平和的解決を強く求めることができた。アジア太平洋諸国は先進7カ国と共に、中国に対し強固な連帯を結成した。とりわけ、日本国民は比類ない安心・安堵感を分かち合っている。日本経済新聞の27~29日の世論調査で内閣支持率が56%と、4~5月の前回調査から3㌽上昇したのは、その反映であろう。難民、ブレギジット(英国のEU離脱)問題の降りかかる火の粉を振り払わなければならず、南・東シナ海の中国の領海拡張問題に地理的に直接、脅威を感じることがない欧州の首脳も、挑発行動を繰り返し、力による国境変更を試みる中国の行動に対する問題意識が深まり、中国の侵略行為を批判する国際世論が高まった。

オバマ大統領、日越両国と過去の歴史に向かい合う

オバマ大統領はサミット終了後、安倍総理と共に、広島を訪れた。大統領は原爆投下を文明に対する悲劇と位置づけ、グローバルな歴史観から改めて「核なき世界」に実現を訴えた。日米両国は、かつて敵国同志として戦った負の歴史を乗り越え、緊密な同盟関係を結んでいるが、今回、現職大統領の広島訪問が実現するまで、原爆投下から70年以上の歳月が流れている。米国には原爆投下を正当化する世論も依然、根強い中で、日米両国が慎重に練り上げた大統領の広島訪問は、謝罪こそなかったが日本にとっては大きなトゲが抜けた印象だ。上記の日経世論調査で、オバマ大統領の広島訪問について聞いたところ「評価する」が92%に上り、圧倒的な支持を集める結果になった。日米両国の心のわだかまりが解け、大戦の傷口がようやく癒され、未来志向の日米同盟がさらに強固になる。

オバマ大統領はサミット出席前、3日間のべトナム訪問を果たした。「300万人のベトナムの兵士と市民、5万8315人の米国民が命を失った。両国は痛みと尊い犠牲をいつまでも忘れてはならない」と同地を訪れた現職米大統領として初めてベトナム戦争に言及、米軍がジャングルに逃げこんだベトナム兵を探すため散布した大量の枯葉剤にも触れ「エージェントオレンジ(枯葉剤の通称)を除去し、ベトナムの土地が元の姿に戻るよう引き続き努力する」と述べた。「100年の旅へ共に乗り出そう」と呼びかけ、米越関係が新時代に入ったことを強調した。今回、オバマ大統領は広島とベトナムで日越両国の過去の歴史問題に向き合った。

対ベトナム武器輸出全面解禁

大統領はベトナムのクアン国家主席と23日、会談、1975年のベトナム戦争終結から続いたベトナムに対する武器禁輸措置を全面的に解除することを表明、両国は完全な国交正常化を果たした。ベトナムはロシアから6隻の潜水艦を購入するなど、国防力の強化に努めているが、早速、米国から対潜水艦哨戒機「P3C」を購入、南シナ海の監視能力を強化するものとみられる。米国は米越関係の「完全正常化」を機に、旧ソ連が租借し、1979年から2002年まで海軍基地を置いていたカムラン湾を活用、中国が軍事基地化を急ぐ南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)の監視能力を高める意向だ。オバマ大統領は海洋の安全保障は米国の深刻な懸念だとして、中国の人工島も対象とした米軍による空と海の航行の自由作戦を続けると表明した。すでに日本は4月に護衛艦2隻を初めてカムラン湾に寄港させ、5月にも護衛艦1隻が入港した。

オバマ大統領の伊勢志摩サミットへの出席に合わせてのベこのトナム訪問、広島訪問は米国の「アジア回帰」「アジア・リバランス(再均衡)」政策の再確認だ。フィリピンがオランダ・ハーグの国際司法裁判所に南シナ海をめぐる中国の主張を違法として申し立てている問題で、6月にも中国に不利な判断が出る見通し。中国は、包囲網が敷かれているという印象を抱き、伊勢志摩サミット、オバマ大統領のベトナム訪問に猛反発している。

9月のG20 杭州サミットで巻き返し図る中国

特に、オバマ大統領の広島訪問に対して、広島訪問で日米同盟が改めて強化されたことに不満を抱いている様子で、巻き返しに出ようとしている。王毅中国外相は「広島は注目されるべきだが、南京も忘れてはならない。被害者には同情に値するが、加害者は永遠に責任逃れできない」と、先の大戦の被害者は中国であり、日本は加害者であることを強調した。中国は9月に浙江省杭州で開く20カ国・地域首脳(G20)会議で、参加首脳を江蘇州南京の南京大虐殺記念館に案内し、日本の戦争責任を改めて非難する場にしたい意向だと言われる。安倍総理に日中戦争、南京大虐殺に対する謝罪をさせたいのが本音だろう。

2016年5月31日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ