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国際問題コラム「世界の鼓動」

「アジア回帰」政策の大転換かーートランプ米大統領候補の「対外不干渉主義」

会員 尾林賢治

 

安保条約破棄、不都合なら核武装を

米大統領選の共和党トランプ候補は、「対外不干渉主義」を前面に押し出し、世界の米軍配備を見直す方針だ。オバマ政権の「アジア回帰」あるいは「リバランス」政策も同様に対象になる。

同候補は「日韓両国が米軍の駐留費を大幅に増やさない限り、米軍は撤退する。不都合なら、両国は核武装し独力で防衛体制を強化すべきだ」「米国は日本が攻撃されたら日本を敵から守るが、日本は米国が攻撃されても米国を守らない。こんな不平等な条約は改定すべきだ」と主張している。だから、もしトランプ候補が大統領に選出された場合のシナリオを用意する必要があるが、核武装論にまで踏み込んだ対応となると、両国とも立ち往生するばかりだろう。しかし、トランプ候補の主張の根底は日韓両国からの米軍撤退論であり、対米従属に甘んじてきた日本が、初めて直面する試練だ。

トランプ候補の「対外不干渉主義」は、オバマ大統領が打ち出した「米国は世界の警官の役割から降りる」という原則をさらに強化しようというものだ。 「われわれは、かつては世界で最も裕福な国家で、世界最強の軍事力を保有していたが、今や、債務国に転落し、貧しい国になり下がっている。空港、鉄道、道路はどこも老朽化しており、橋だって、いつ崩壊してもおかしくない。それに引き換え、欧州、アジアの同盟国、中国は繁栄を謳歌している。不公平ではないか。もう利用され続けるのは、たくさんだ」と訴える。

アジア回帰政策の大転換も

米軍を世界中に駐留させる対外関与費用を、自国の社会資本強化に振り向けようと問題提起する。「あなたは孤立主義か」という質問に対しては「アメリカ第一主義」だとかわす(ニューヨークタイムズ電子版3月26日)。伝統的に米国にとって最も重要なNATO(北大西洋条約機構)との同盟関係について、廃止を含め総点検を主張する。「冷戦が終わり、旧ソ連より規模が小さくなっているロシアを敵視し続ける時代遅れのNATOを、米国は巨額の予算をつぎ込んで拡大し続けている」「欧州の問題にもかかわらず、ウクライナ問題に首を突っ込んでいる米国は馬鹿だ」とNATOは廃止するか、テロ対策の国際組織に再編すべきだという主張だ。

日本にとって見逃せないのは、トランプ候補の対外不干渉主義が、オバマ大統領の「アジア回帰」政策の見直しにつながることだ。ワシントンポストとのインタビュー(3月21日、電子版)では、米国のアジアでの関与が自国の利益になるという考え方について「そうは思わない」と答えている。となれば、オバマ大統領の「アジア回帰」政策は根底から見直される。日本を始め、アジア太平洋諸国は米国の「アジア回帰」政策を頼って、国防政策を構築してきた。トランプ候補が大統領に選出され、アジア回帰政策を大転換すれば、アジア地域の安全保障の枠組みは、土台から建て直しを迫られる。歓迎するのは中国だけだろう。

「アメリカ第一主義」は結局、孤立主義だ。米国は国防予算も聖域としない財政改革を進めており、2012年から10年間で5000億㌦の国防費削減に取り組んでいる。トランプ候補は、さらなる国防費削減を要求する。もちろん、これには、議会、国防総省、国務省、産業界は強硬に反対するに違いない。米軍の海外駐留人員、経費をさらに大幅に減らすことは、超大国米国の権威が損なわれ覇権が大きく後退する。その上「米国の世界への影響力や戦後、米国が築いてきた秩序が破壊され、取り返しがつかなくなるかもしれない」とユーラシアグループのイアン・ブレマー社長は懸念する(ダイヤモンド4月9日)。

「もはや米国は超大国ではない」が発想の原点

だが、トランプ候補は意に介さない。米国は債務国であり、もはや超大国ではないという自己認識が発想の原点だ。「われわれは、でかいが頭の悪いガキ大将だった。散々、外国に食い物にされてきたが、もうそうはさせない。どの国とも友好関係を保つが、法外な金をむしられ、利用されるのはごめんだ」(ニューヨークタイムズ、3月26日)と、対外戦略の大転換を迫る。トランプ候補の強みは、自己資金で大統領選を戦っていることだ。ヒラリー候補は抜群の選挙資金の集金力を誇る。しかし、例えば、ウォール街から大量の資金提供を受けているため、厳しい金融規制政策などは打ち出せないでいる。その点、いわゆる産軍複合体からも政治献金を受けていないトランプ候補は、軍事予算の削減という手強い聖域にも、斬り込んで行ける。

「外交の素人は口を出すべきではない」とオバマ大統領が手厳しく批判する。中国が東シナ海の尖閣諸島占拠を虎視眈々と窺い、南シナ海で岩礁を7カ所も埋め立て、滑走路、軍港を設け、ミサイル基地を整備、軍事拠点化を急いでいることには、まだ十分な認識が足りないようだ。

トランプ候補のアプローチは、ビジネスマンらしくまず、経済、金だ。韓国と日本に駐留している米軍の経費は、恩恵を受けている両国が駐留費を全額負担すべきだと言う。日本は米軍の駐留費の約75%を負担している模範国家なら、100%負担すべきではないかと言う。日韓両国が駐留経費の全額負担を受け入れなければ、安全保障条約は破棄すると断言する。

日本は米国で大規模なビジネスを展開して巨額の利益を得ている。なぜ、米国は軍隊を駐在させて日本の防衛を担わなければならないのか、というのが基本的な問題提起だ。韓国も同様だから、米軍駐留費用を全額負担してもらう。もし、応じなければ、両国との安全保障条約は破棄する。両国は米国の核の傘を失うが、核武装して独力で防衛力を構築すればよいと言う。オバマ大統領が「核なき世界」を目指して、3月31日から2日間、50カ国以上の首脳をワシントンに集め核安全保障サミットを開催、核不拡散などについて論議したが、その足元でトランプ候補は日韓2カ国の核武装を容認する発言を続けた。

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2016年4月7日 up date

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