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国際問題コラム「世界の鼓動」

「アジア回帰」政策の大転換かーートランプ米大統領候補の「対外不干渉主義」

韓国で高まる核武装論

在日米軍の駐留費負担について、日米両国は2015年12月16日、2016年度から5年間、2011~15年度に比べ、133億円増やし、9465億円とすることで合意したばかり。駐留経費に占める負担比率は、2002年の古いデータだが、日本75%、韓国40%。ドイツ33%、イタリア41%という数字がある。日本は優等生だが、トランプ候補はこの種のデータは知らないのかもしれないが、日本が負担比率を100%に引き上げるのは、それほど難しいことではない。

日韓両国には核武装論者が存在するが、これまで米国は全力で阻止してきた。しかし、北朝鮮が核実験を繰り返し、核搭載可能なミサイル開発を着々と進めているため、韓国では核武装論が急速に高まっている。中央日報の2月15日発表の世論調査では核武装を支持する回答が67・7%に達した。「核の抑止は核に頼る以外にない」「核を持たなければ、相手の慈悲に生命と運命をさらすしかない」という国際政治学者のハンス・モーゲンソーの教え(「国際政治」岩波文庫)に沿った反応だ。しかし、韓国の核武装は、例え米国が認めても、中国が認めるとは考えられない。

核アレルギーが強く非核3原則を順守してきた日本は、新聞社などが核武装の賛否を問う世論調査を実施することさえ、憚られる空気がある。日米安保条約を失えば、韓国と同様に独自の核武装を検討せざるを得なくなるが、まず、日本は核武装路線の道を選べない。

日米安保の片務性解消は日本に一番厄介

トランプ候補は、日米安保条約について、一方的に米国が日本の防衛義務を負い、日本は米国の防衛義務を負わなくても済む片務性を厳しく追求する。この不公平な状態を解消するため、再交渉して改定する方針だ。日本にとって、実はこれがいちばん厄介な問題だ。

安倍内閣は3月29日、安全保障関連法を施行、これまで憲法9条の下で禁じてきた集団的自衛権を行使できるようにした。確かに、これまでの日米安保条約は日本への防衛義務を米国に負わせてきたが、今回は日本がリスクを負い、米国への支援を増やすことができるようになる。集団的自衛権を行使、日本の存立が脅かされる危機が迫ったとき、日本が攻撃されなくても武力行使が一部できるし、日本周辺以外でも米軍などを後方支援できるようになった。

この結果、日米安保条約の片務性は、やや解消したが、トランプ候補は、これでも、全く満足しないと思われる。ここまでの段階でも、安倍内閣は大変な苦労をした。15年夏は安保法制案反対の国会を取り巻くデモが連日続き、8月30日には法政大学の山口二郎教授が「安倍を叩き斬ってやる」とテレビカメラで叫び、9月21日のデモには参加者が12万人に達した(主催者発表)。

日米安保条約の片務性を解消するには、憲法9条の改正に行き着く。国内政治事情はこれを、なかなか許さないだろうから、トランプ候補は仮に大統領に選ばれた場合、片務性を解消できないとして、安保条約破棄に動くかもしれない。

片務性解消は憲法9条改正に行き着くが

すると、最悪の展開が始まる。憲法9条改正ができないために、日米安保条約の片務性が解消できない。米国は破棄を通告、日本は米国の核の傘を失うが、反対が多いため、独自に核武装はできないまま、丸裸になる。モーゲンソ―の教えに従えば、当然、中国の支配下に入る道が待っている。韓国も中国の反対を押し切ってまで核武装する決断はできないので、日韓両国が中国の傘下に入ることになるかもしれない。

トランプ候補は中国の南シナ海での海洋進出に対して「図々しい連中だ」とは言いながら、対抗策としては「中国は為替操作をしている」(為替を不当操作していると米財務省が認定すれば、議会は制裁を課すことができる)「中国製品に45%の輸入関税をかける」などと非難するに留まる。
「皆はわかっていないが、米国は中国に対して強力な経済力を持っている。それは貿易だ。中国は米国を豚の形をした子供用の貯金箱のように利用している。金を溜めるばかりで、払い出すことはない」と、関税率引き上げなど対中輸入規制を発動することを念頭に、中国を締め上げることができると考えているようだ。中国を貿易戦争に持ち込めば、米国自身も世界も被害を蒙ることには配慮が及ばない。

米国の核の傘に頼る安全保障条約について、米国にはかねてから「ただ乗り」論がくすぶっている。トランプ候補の言い分は、ある意味では米国の本音を歯に衣を着せずに語っている面がある。財政事情が悪化するに伴い、米国は自由陣営の守護神の役割を徐々に後退させ、同盟国の欧州も日本も米国に甘えることなく、自国の防衛は自力で守ってくれと言うようになってくる。日韓に核武装を促すトランプ候補の発言も、その延長線上に位置づけられる

太平洋相互安全保障条約締結に備えた準備を

日本はいよいよ、対米追随から独自に防衛体制を構築することを考えなければならない時代に入ってきたことだけは確かだろう。その場合、日本がとるべき方向はアジア太平洋諸国と相互安全保障条約を結ぶことしかない。参加国は最終的にはオーストラリア、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポ―ル、ベトナム、さらにはインドを目指す。困難だが韓国にも加わってもらう。米国が加わってくれれば、NATOの太平洋版だ。トランプ候補はNATOには批判的だが、太平洋にこそ、NATOの新しいバージョンが必要だと理解してもらわなければならない。

「過去、ジミー・カーター大統領(1977~81年)は、米軍の韓国から全面撤退を公約に掲げ当選し、1年半くらい公約を守ると言い続けたが、国防長官や国務長官、議会が歯止めをかけ、結局、その公約は実現できずに諦めることになった」とブッシュ政権時代、国家安全保障会議アジア上級部長を務めたマイケル・グリーン戦略国際問題研究所上級副所長が指摘する様に(週刊ダイヤモンド4月9日)、米国には立法、行政、司法の3権が分立し、大統領の権力を抑制し、暴走を防ぐ制度が備わっているため、トランプ候補の過激発言に過度に神経質にならなくてもよいのかもしれない。

米国研究家の国際キリスト教大学の森本あんり教授は、アンドリュー・ジャクソン7代大統領も選挙中は南部の無学な田舎者と馬鹿にされたが、男子普通選挙制を実現するなど実績を積み重ね20㌦紙幣の肖像に選ばれた、レーガン大統領も、たかが3流の映画俳優と蔑視されながら名大統領になったなどの例があり、大統領になれば、優秀なブレーンを集めるので、極端な政策は打ち出さなくなると楽観視する(3月2日、日本記者クラブ)。過激な発言を繰り返すトランプ候補が今後、どのくらい優秀な外交、軍事政策のブレーンを集めることができるか、彼らの助言をどこまで活かして“成長”するだろうか。

以上

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2016年4月7日 up date

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