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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
10月20日から23日まで中国の習近平主席が英国を訪問したニュースは日本のメディアでも大いに取り上げられていました。もちろん英国メディアでも大きな話題であったのですが、中国国内の人権問題に言及したりして、どちらかというとキャメロン政権が示した「大歓迎」とはちょっと雰囲気の違うコメントが目立ったように思います。例えばGuardianの社説は
英国は中国との間で長期的かつ緊密なる経済関係を望んでいる。しかし将来、非常に大きなリスクが横たわていることも事実だ。
Britain wants a close long-haul economic relationship with China, but there are huge risks ahead
として、原発建設を始めとするインフラ関連事業への投資、ロンドンの金融業界において拡大する中国の影響などなど、キャメロンの進める対中接近ぶりを見ると、英国の重要産業が中国の所有物になってしまい、経済政策そのものにも中国の影響が出てくるのではないかと懸念している。
またThe Economistは
英国はレッドカーペットを敷いて習近平氏を歓迎しているが、中国以上に親友の国々のことを忘れてはならない
Britain has rolled out the red carpet for Xi Jinping. It must not forget its better friends
として、特にアメリカが直面する南シナ海における中国の行動にチャレンジするときには、キャメロンはこれを支持しなければならないし「戦艦の一隻も派遣してもいいのではないか」(Even better, he could send along a ship)とも言っています。
一方、Evening Standardなどは、前の連立政権で産業大臣をつとめたビンス・ケーブル氏の「現実的な対応」を求めるエッセイを掲載しています。
(中国との付き合いには)リスクが伴うが、英国は新しい超大国としての中国を歓迎しなければならない
It’s risky, but we must welcome China as the new superpower
というわけで、政府に対しては前向き(positive)であると同時に「現実的な対応」(hard-headed approach)を求めています。彼の見るところによると、英国は中国との経済関係については他国よりも大いに遅れているのだそうです。
と、まあメディアの論議としては「ビジネスもいいけど中国の人権問題も忘れてはならない」という雰囲気に落ち着いたような印象です。ただ10月20日付のIndependentのサイトが掲載した普通の英国人を対象にしたアンケート調査では、どちらかというと中国との経済関係の緊密化を望む声が目立っています。例えば「英国にとって最も重要な貿易相手はどこか?」という問いについては「いまのところ」はヨーロッパがトップで中国は2位、アメリカは3位となっているけれど「20年後は?」と聞かれると「中国」という答えがいちばん多い。
というわけで、英国人の意識としては、経済関係では中国の存在感は非常に大きいと思われるのですが、国としての全般的なイメージとなると必ずしも芳しくない。オーストラリア、日本、中国など欧米以外の12カ国を挙げて、それぞれの「プラス・イメージ」と「マイナス・イメージ」を尋ねたところ、中国については「プラス」が29ポイント、「マイナス」が55ポイントで差し引きでマイナス26ポイントで必ずしも高いものではないという結果になっています。
このグラフは、英国人がアメリカや西ヨーロッパ以外の国々についてどのような印象を持っているのかを示しています。YouGovという世論調査機関の調査による数字ですが、あらかじめ国の名前を挙げたうえで、一種の「人気(不人気)投票」を行ったようなものです。オーストラリアは英国の一部のようなものだから親しみを感じるのは当然ですが、日本についてもポジティブなイメージを持っている英国人が多いという結果になっている。