講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です
ところで今年は、大統領に就任して初めての「9月30日」を迎えるジョコ・ウィドド大統領が、9・30事件被害者家族に対して、国の長としてお詫びをするのではないかという憶測が流れた。しかし結局、大統領の口から謝罪はなかった。謝罪の代わりに彼が語ったのは「国の安定を乱す社会、政治的騒擾に対して警戒を怠るな」という国軍寄りの言葉だった。
元々政治的には人権を尊重する市民派スタイルをとり、2か月前に元PKI家族に対する差別をやめるべきだと語ったジョコ・ウィドド氏だったから、被害者側はもしかしたらという期待があったが、大統領が舵をきることはなかった。
このことはあらためて、民主化時代を迎えた今も、国軍は大統領さえも軽視しえない隠然たる権力を保持しており、インドネシアの民主主義は危ういバランスの上に立っていることを示している。そして、9・30事件が半世紀を経た今でもインドネシアに暗い影を落としていることに気づかされるのである。一度引き裂かれた国民間の和解は容易ではない。