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航空機機内では足を動かす体操を勧めるビデオを放映したり、ドリンクサービスを増やして脱水に注意を促すなどの努力を航空会社が行ったため、最近は殆ど発症を見なくなりました。ただハードスケジュールのツアーの帰りなどに、機内で疲れて眠ってしまったり、眠剤を使って長時間寝る時は注意して下さい。トイレに立つのを億劫がって水分を控えるのもやめましょう。
このように機内で急病人が発生した時、訓練を受けた客室乗務員がまず対処に当たりますが、重篤な場合は「ドクターコール」がかかります。表2に、やはり大手航空会社でのドクターコールの際の援助の申し出の数を示します。
【表2:ドクターコールと援助数】
御覧になってお分かりのように、日本ではまだ「善意」の手助けをして下さる方々が多く、医療関係者はドクターコールの8割で申し出があり、そのうち医師に限ってみてもドクターコールの6割で申し出があります。国際線などでは大体医師が1人は搭乗していると言っても過言ではないでしょう。
繰り返しになりますが、日本ではまだまだ「善意の援助」が残っていると感じています。ただ医師の方から質問として良く頂くのが「機内での医療行為に対する責任」の問題です。日本には米国での「良きサマリア人の法律」に相当するものはありません。米国ではこの法律によって、基本的には免責とされています。私が日本の法律家に伺ったところでは、「明らかなミスが無ければ免責される」であろうとの答えでした。なかなか抽象的な表現ではありますが、基本的に医療用具・材料の乏しい閉鎖空間での医療行為ですので、緊急避難的に行われた医療行為は免責とされると考えて頂いて結構だと思います。私が全日空の常勤産業医を約10年やりましたが、機内でお亡くなりになられた方もありますが1件も裁判になったケースはありませんでした。またもし不幸にして裁判となり金銭的負担を強いられたとしても、それは航空会社が飛行機に掛けている保険で賄われることをお伝えしたいと思います。
前回のこのコラムでもお伝えしましたが、私が英国ロンドンで診療にあたっていた時、「この世の見納めに」と肝硬変で腹水の溜まったお年寄りの方がロンドン旅行に来られ、体調を崩されてしまいました。ご本人がそれほど意識しなくても、こうしたことはままあります。航空機は今や大変身近な乗り物となり、慢性疾患を持つ患者さんのQOL(生活の質)向上のためにも、海外に出かけて頂くことは我々の望むところでもあります。
しかし、ひとたび機内で体調を崩されて飛行機が出発地へ戻ったり、他の空港に緊急着陸などを行った場合、他のお客様にも大変迷惑がかかりますし、航空会社にとってもつらいこととなります。この記事でお示しした情報を参考にされ、搭乗可否判断を行って頂ければ幸いと思います。またもしご不明な点がありましたら、遠慮なく航空会社の相談窓口にお問い合わせ下さい。
多くの患者さんに快適な空の旅を経験して頂くのにこの記事がお役に立てればと願っております。
(参考)
○ 全日空:おからだの不自由な方の相談デスク
電話 0120-029-377 / 0570-029-377
○ 日本航空:プライオリテイー・ゲスト・サポート
電話 0120-747-707 / 0570-025-071