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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
4月6日付のGuardianに
スコットランドとイングランドのナショナリズムの高まりが、古い体制にとって脅威となっている
Rise of Scottish and English nationalists threatens old order
という記事が出ています。同紙のマイケル・ホワイト(Michael White)という副編集長が、間もなく行われる選挙について書いているのですが、読者の対象がアメリカ人で、外国人にもなるべく分かりやすいような説明をしています。英国人ではないむささびにも読みやすいものになっています。
英国の政治というと、保守党と労働党の二大政党による政権交代が頻繁に行われる民主主義のモデルのように言われてきたけれど、それは「古い体制」で、今度の選挙で「スコットランドとイングランドのナショナリズムの高まり」によって崩される結果になるだろうと言っている。イングランドのナショナリズムは(これまでにも何度か紹介した)英国独立党(UKIP)に代表される動きです。いろいろと政策らしきものはあるけれど、基本的なスローガンとしては英国をEUから脱退させ、移民の流入を制限することを訴えている政党です。最初のうちは保守党右派の票が流れるとされていたのですが、最近では現状に不満な北イングランドの労働者階級の間でもUKIPに好意的な声が出てきています。
ただ、むささびが今回紹介したいのは「スコットランドのナショナリズム」の方で、これを代表するのがスコットランド民族党(Scottish National Party:SNP)であり、ニコラ・スタージョン(Nicola Sturgeon)という女性党首(45才)です。SNPの党首ということは、スコットランド政府の首相(First Minister)という立場にもある人です。再確認しておくと、英国の場合、全土を統治する機関としての「国会」(ロンドンにある、あれ)以外にスコットランド、ウェールズ、北アイルランドだけを統治するそれぞれの議会というのがあります(なぜかイングランドだけを統治する議会はない)。
まず基本的な数字から。5月7日に選挙が行われる下院の議員定数は650で、そのうちスコットランドには59の選挙区が割り当てられている。スコットランドを選挙区にする主なる政党は労働・自民・保守・スコットランド民族(SNP)の4つですが、2010年の選挙では労働党が41議席で圧倒的トップ、次いで自民・SNP・保守の順だった。昔からスコットランドは労働党の天下であったわけです。
それが根底から崩れてしまったのが2011年のスコットランド議会の選挙だった。
この選挙でSNPは2位の労働党を32議席も引き離して圧勝してしまった。SNPはそれまでも第一党ではあったのですが、2位の労働党との差は1議席に過ぎなかった。なぜそうなったのか?この選挙で、SNPが2014年にスコットランド独立を問う住民投票を行うと約束したからです。そして住民投票が行われた結果、55%:44%で否決されたのですが、労働党も含めた独立反対派は肝を冷やすような大接戦であり、SNPは実質的な勝利を宣言したりした。投票がこれほど接戦になった理由は労働党支持者が雪崩を打って独立支持に回ったからだとされています。「独立支持」ということは「SNP支持」というのと同じことです。
で、5月の選挙でこれがどうなるのかというと、上のグラフが示すとおり、スコットランドに関する限り、SNPが現在の6議席から45議席へと大躍進する一方で労働党は41から10議席へと大幅減という予想もある。ロンドンの国会で、出来れば単独過半数(326議席)を取って政権に返り咲きたい労働党ですが、いまのところの予想では辛うじて第一党にはなれても単独過半数は難しいとされている。労働党の現有議席は258だから68議席増やさないと単独過半数には到達しない。だというのにスコットランドにおける議席数を30も減らしているようではどうしようもない。となるとどこかと連立を組むというハナシになる。その相手として俄然クローズアップされているのがSNPというわけです。ただ労働党のミリバンド党首は、4月16日に行われた野党党首のテレビ討論会で、SNPと連立は組まないと明言している。「独立を志向して、英国を解体させるような政党とは組めない」というわけです。