NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

シリーズ・海外渡航と医療④

「疾患と航空機の搭乗条件」――― 機内環境

五味 秀穂 (財)航空医学研究センター所長

五味 秀穂
(財)航空医学研究センター所長

これまでロンドンでの医療経験の特異なケースを紹介してきたが、ある時、こんな事例にも遭遇した。肝硬変を患っていたかなりご高齢の方が「この世の見納めに」とロンドン旅行に来られたのだが、腹水が溜まり、体調を崩されて診察に来られたのである。幸いこの方はその後あまり問題はなく、元気になられ、無事旅行を終えられたが、最近は海外旅行に出かけられる人もさまざまで、慢性疾患を抱えておられる人も少なからずおられる。

日本人の海外旅行客は年1700万人前後に上っており、近年は格安航空(LCC)の相次ぐ参入によって、今後さらに増加することが予想されている。国内旅行での航空機利用は、長距離バスに乗るような感覚に近づいているといえる。しかし、航空機利用には、地上とは違う環境下にあることをよく知っておく必要がある。機内で体調を崩される方も増加しつつあるからである。

そこで、3回に分けて、航空機利用の際に知っておくべき機内環境や身体的搭乗条件に関して説明をしておきたい。第1回目は旅客機の機内環境について説明する。

 

Ⅰ.機内環境

ご承知のように航空機(ジェット機の場合)が上空を巡航している時には、機内では地上と環境が異なってきます。簡単に言えば「低圧(低酸素)」「低湿度」の環境に変わってくることです。

 

Ⓐ 気圧の低下

ジェット機が通常航行するのは地上約1万メートルであり、この時の外気圧は約0.25気圧です。機内は与圧装置によって圧力は低下しないように調整されているとはいえ、約0.7-0.75気圧に低下します。これによって航空性中耳炎・航空性副鼻腔炎や腹部膨満が引き起こされます。離陸・着陸時に突然頭痛(特に前頭部)を自覚される方がいますが、おそらくこの航空性副鼻腔炎であると思われます。

またこの気圧の低下に伴い血中の酸素分圧も低下し、動脈血中の酸素飽和度は健常人で90-95%に低下します。健常人であれば特に体調に異常は生じませんが、循環器疾患、呼吸器疾患、重度の貧血がある場合は体調異常が出現する可能性があります。

 

Ⓑ湿度の低下

ジェット旅客機は2-3分に1回の割合で機内の空気を入れ替えるほど、頻回に換気が行われています。その取り入れる空気は半分が外気であり、半分は機内の空気を取り出しフイルターを通したものです。地上1万メートルの外気は湿度ゼロであり(細菌などもゼロといってよい)、故に機内の湿度は航行している間に着実に低下し、最終的には湿度10%前後まで落ちることとなります。砂漠と同じ環境と言ってよいでしょう。この乾燥によりコンタクトレンズで角膜に傷がついたり、発汗が多くなっていきます。機内は22-25度位の温度設定になっていますが、涼しく感じるのは湿度の低下のためです。

 

なお、参考までに、全日空などが導入し既に運航しているボーイング787は、炭素繊維により機体が形作られているため強度が増し、与圧装置による巡航中の機内気圧は従来より高い0.8気圧となっています。また加湿装置が装備されているため機内湿度も上昇し、より快適な機内環境が得られるようになっています。0.8気圧までの気圧低下であれば、それによる体調の変化はあまり感じられないとされています。

 

機内環境の変化について全日空や日本航空のHP内にも記載されています-機内で健康&快適にお過ごし頂くために。HPでの入り方を示しましたので、参考にして下さい。以下の順番にクリックしてください。

(参考:全日空の場合)

①HP右上「サポート」:おからだの不自由なお客様へ

②右欄「はじめに」:安心してご利用いただくために

③「目次」:機内環境について

④文中「あなたの安全を守るために⁄機内で健康&快適にお過ごしいただくために」

2015年4月12日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ