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ここで、テロを抑え込むことに一定の成果をあげたとされているユドヨノ前政権のハードとソフト硬軟取り混ぜたテロ対策をふりかえってみたい。
まずハード面から。テロ対策は実はユドヨノ政権誕生以前において、その土台が整備されていた。2002年10月12日バリ爆弾テロ事件の一週間後にあたる同月19日「テロ犯罪撲滅に関する法律に代わる政令」が制定・施行され、2003年3月には法律化している。同法成立後インドネシア国家警察は米国とオーストラリアの支援を得て、対テロ特殊部隊を2003年6月に創設した。
ユドヨノ大統領はこうした実行部隊を使って、本格的なテロの取り締まりに乗り出した。特殊部隊によるテロ組織拠点急襲作戦は、司令塔をつぶすことによって組織の弱体化に成果をあげた。2009年7月のジャカルタ爆弾事件以降、大規模テロはインドネシアで発生していない。
過激イスラム主義組織幹部の検挙により、多数の「テロリスト」が刑務所で服役することになった。ここで重要になってくるのが、受刑者に再びテロを繰り返させないようにするために、過激なイスラム主義思想を除去して、受刑者を悔悛させ、寛容なイスラム理解を彼らの精神の中に移植することである。
「脱ラディカル化」プログラムと呼ばれるソフト面のテロ対策は、受刑者が再び人間的な精神の温かみを回復させるための支援や、困窮化し社会から白眼視される家族への支援などが、柱となっている。そして近くテロ事件関係者の刑期終了・出獄が迫るなか、インドネシア刑務所で実施されている「脱ラディカル化」プログラムがどれくらい効果をあげているのか、社会的注目が集まりつつある。このプログラムの効果に関する研究には、インドネシアのみならず欧米研究者も加わって、その成果が近年発表されつつある。最近入手したこれら研究のなかで、印象に残ったものを紹介したい。
「脱ラディカル化」プログラムの実際は、どのようなものか。ブラウィジャヤ大学の研究者ミルダ・イスティコマによれば、インドネシア司法省管轄に400ある刑務所のなかで過激イスラム主義者を収容する特別な体制が組まれているのは20刑務所である。そのうちの二つ、スラバヤとマラン刑務所では「再社会化」と呼ばれる「脱ラディカル化」プログラムが実行されてきた。
このプログラムが目指すのは、受刑者が罪を自覚し、有益で活動的な社会人に生まれ変わらせることだ。「脱ラディカル化」プログラムが採用している手法は、1)看守が受刑者個人との信頼関係を築き、彼らの人間性を回復させるアプローチ、2)受刑者に対して宗教的、心理的カウンセリングを施すプログラム、3)社会復帰に向けて有益な技術を受刑者が学ぶ職業訓練の三つである。
しかしながらミルダは、刑務所の看守等専門人材の不足、劣悪な施設設備等ゆえに「脱ラディカル化」プログラムは必ずしも当初期待していた成果を挙げていないと報告している。