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国際問題コラム「世界の鼓動」

英国政治「台風の目」のこれから

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

5月22日に欧州議会(European Parliament)の英国代表議員(Members of European Parliament: MEP)の選挙が行われました。実はこの日にはイングランドと北アイルランドの地方議員の選挙も行われたのですが、何といっても注目を集めたのはMEPの選挙だった。英国では来年(2015年)総選挙があるのですが、それ以前の選挙としてはこれが唯一の全国規模での投票が行われるものであり、来年の選挙を行方を占うものとして大いに注目を浴びたわけです。

今回の選挙で、英国に割り当てられた議席数は73。それを全国12の選挙区に割り振って選挙したもので、主なる政党の獲得票数と議席数は次のとおりです。カッコ内の数字は議席数の増減を示しています。より詳しい結果はBBCのサイトに出ています。

英国独立党(UKIP) 440万票 24議席

(+11)

労働党(Labour) 400万票 20議席

(+7)

保守党(Conservatives) 380万票 19議席

(-7)

緑の党(Greens) 120万票 3議席

(+1)

自民党(Lib-Dem) 100万票 1議席

(-10)


英国の政治をウォッチングしている人であれば、この選挙結果がいかに画期的なものであるかが分かります。これまでの英国政治と言えば、保守・労働の二大政党と中間的・進歩的(但し少数派)でヨーロッパ寄りの自民党という構図で決まっていた。なのにこの選挙では、あろうことか英国のEU脱退を主張するUKIPが首位、現連立政権の一翼を担う自民党が第5位に下落、これまでならほとんど泡沫扱いされていた緑の党にさえかなわないという事態になってしまった。つまり反EUは大躍進、親EUは惨敗ということになったということです。全国規模での投票を伴う選挙で労働党と保守党以外の政党がトップにたったのは100年ぶりのことなのだそうです。

惨敗を喫したLib-Demでは当然のごとく党首(ニック・クレッグ)の交代を求める声が出てきたりしているのですが、いちおう2位に収まった労働党についても「思ったほどの伸びではない」というのが大方の評価です。またキャメロンの保守党については3位なのだから情けない成績なのですが、「思ったほど悪くなかった」と言われたりしている。ただ三大政党の中では、保守党より右と言われるUKIPの躍進で最も影響を受けると思われるのが保守党であることは間違いない。キャメロンの穏健保守路線に対する不満が党内には根強くあり、YouGovの調査によると、前回の選挙(2010年)で保守党に入れた人の18%が「次回はUKIPに入れる」と答えている。

今回の選挙における全投票のうちUKIPの得票率は27.5%ですが、これは2010年の総選挙における自民党の得票率(23.0%)を上回ります。この調子で来年の総選挙ということになると、理論的には自民党の57議席をも上回ることになる。もちろん今回の投票率そのものが34.17%と総選挙の時の65.1%に比べるとはるかに低いのだから、これらの数字を以て2015年の選挙結果を占うというのは乱暴ではあるのですが、来年の選挙でUKIPが台風の目となることは間違いなく、保守党幹部の間では選挙協力を考えるべきだという発言も出ています。

そもそもUKIPとはどのような政策を掲げている政党なのか?BBCのサイトからかいつまんで紹介すると:

  • 対欧州関係:「円満離婚」(amicable divorce)によって離脱、貿易関係は継続させるものの加盟費などは払わない(ノルウェーやスイスと似たような関係にする)
  • 移民問題:大量・無制限移民に終止符を。
  • 同性結婚:法的には夫婦ではないが、そのような関係にあるcivil partnershipsには賛成だが同性婚の合法化には反対
  • 経済政策:大幅減税と公共事業の大幅縮小

どちらかというと「小さな政府」を標榜して、かつてのサッチャリズムを思わせる姿勢ですが、反EUと移民制限以外は具体的な政策のようなものはない。ではどんな人がUKIPの支持者なのか?The Economistによると

older, whiter, more socially conservative than the average, and disillusioned by a political elite they consider venal and remote.

という人たちなのだそうです。すなわち「年寄り・白人・保守的で政治家は腐敗しており、国民からは遠い存在だと感じている人々」ということになる。

問題は現在のUKIPブームがどの程度もつのかということです。今回の地方選や欧州議会選でUKIPに投票した人のうちどの程度が来年の選挙でもUKIPに入れるのかということですよね。世論調査では約半分となっているのですが、そんなに行くだろうか?という声もある。実は前回(2009年)の欧州議会選では英国票の16.5%を獲得したのですが、2010年の選挙における得票率はわずか3.1%にすぎなかったということもある。

UKIPの大躍進についてトニー・ブレア元首相はBBCとのインタビューの中で、

閉鎖的・反移民・反EU、”この世界からはおさらばだ”という態度は、(英国に対して)経済的な繁栄も世界における力も影響力ももたらさない。

Attitudes that are closed-minded, anti-immigrant, anti-EU, ‘stop the world I want to get off’, those attitudes don’t result in economic prosperity or power and influence in the world.

として、UKIPのような「反動的かつ時代遅れ」(ractionary and regressive)勢力とは断固として対決しなければならないと主張しています。ブレアさんはまた自民党大敗の背景について「EUとは無関係」と言っています。2010年の選挙の際は労働党以上に社民的な政策を掲げていたにもかかわらず、キャメロンの保守党と連立を組むことを選択してしまった。そのことで自民支持層からの失望を買ってしまったのだということです。あのときは労働党と連立を組むという選択肢もあったのですよね。

2014年6月2日 up date

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