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国際問題コラム「世界の鼓動」

中国とロシア:友なのか敵なのか

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

遠い昔のことのように思えるけれど5月20日・21日に行われたロシアのプーチン大統領による中国訪問については、日本でもさぞやたくさんの新聞や雑誌が記事を掲載したと思います。5月24日付のThe Economist誌が

プーチンが東へ旋回している。アメリカは憂慮すべきだろうか?

Vladimir Putin pivots eastward. Should America be worried?

という社説を掲載しています。The Economistという代表的な国際情報誌がプーチンの動きをどのように観察しているのか?いちおうむささびも紹介しておきます。

何といっても注目されたのは5月21日に発表されたロシアから中国へのガスの供給契約ですよね。2018年から2048年までの30年間、1年につき380億立米のガスを中国に供給しようという契約です。380億立米といってもピンとこないけれど、契約高が合計で4000億ドル(約40兆8000億円)と聞くととてつもない規模の契約であることは分かります。

これまでのロシアにとってガスの輸出先は主にヨーロッパだった。それが最近のウクライナ問題もあって、EUとの関係がおかしくなっている、ロシアにしてみればヨーロッパ以外の輸出先を求める必要があった。それが今回の中国との契約のおかげでヨーロッパだけに頼る必要がなくなった。ガス供給の契約は単に経済問題であるのにとどまることはない。ロシアはウクライナで、中国はアジアにおいて地域の最強パワーであることを主張しようとしているけれど、両方とも対米関係における緊張を生み出している。

およそ40年前、リチャード・ニクソン(米大統領)とヘンリー・キッシンジャー(米国務長官)の二人が中国に乗り込んで中国を反ソ連に向かわせるとともにアメリカとの同盟に踏み切らせようと企図した。果たして今日の中露コラボレーションは反米同盟として機能するようになるのだろうか?

Just over 40 years ago Richard Nixon and Henry Kissingerpersuaded China to turn against the Soviet Union and ally with America. Does today’s collaboration between Russia and China amount to a renewal of the alliance against America?

もちろん「中露反米同盟」という印象を演出するというのがプーチンさんの狙いであったし、訪中前にはモスクワにいる中国系のメディアを相手に「中露関係がいまほど緊密であったことはない」という趣旨の発言をしたりしている。考えてみると習近平主席の最初の訪問国はロシアだったのですよね。

中露の経済関係は2013年で900億ドル、中国はロシアにとって最大の貿易相手国であるのですが、2020年にはこれが倍増するのではないかと言われている。西側の金融機関がロシアへの投資を渋るようになれば中国の銀行がある。中国にとってはガスのようなエネルギー源を中東に100%依存するより供給源を多角化したい。ロシアからのガスがあれば公害を生み出す石炭に頼る必要もなくなる。

国際政治の舞台においても中露協調が進んでいる。国連安全保障理事会におけるクリミアにおける国民投票(ロシア編入を目指したもの)反対決議に中国は棄権したし、シリアのアサド政権への経済制裁についても拒否権を発動させたし、イランの核問題でも似たような立場をとっている。

中国とロシアは、両国ともに歴史的には偉大な国であったのにそれがアメリカによって阻害されたという意識がある。両国ともにアメリカによって苛められたという意識が強い。

China and Russia share a strong sense of their own historical greatness, now thwarted, as they see it, by American bullying.

・・・と、いろいろ書いてくると欧米にとっては心配事だらけという気がしないでもないけれど、ロシアと中国の間には基本的な部分で隔たりがある、とThe Economistは言います。例えば今回のガス供給契約ですが、協定に合意するまでに10年もかかっており、中国が値切りに値切ったせいでプーチン訪中の最後の最後までまとまらなかった。中国にしてみればガスの供給元はロシアだけではない。豪州もあるし中央アジアもあるというわけです。

さらに世界的な影響力という点で中国が上昇する一方でロシアのそれはどう見ても下降線をたどっている。しかしロシアはそれを認めたくない。中国には自分たちの力を認めたがらないロシアに対する苛立ちが出てくる。両国の間には広大な国境線があり、ロシア側にはほとんど人間は住んでいないけれど資源は豊富にある。資源大国のロシアには、それが故に産業構造の変革がなかなか進まない。国境線の中国側には人口の多いところがあり、それが故に国境付近にあるロシアの戦術核は中国に向いている。両国は中央アジアにおける影響力を競っているけれど、その間にロシア側に反中国的な感情が出てくる可能性もある。

長期的な視野でみるとロシアと中国は緊密な同盟関係を結ぶ可能性もあるけれど、それが決裂する可能性もある。同盟関係の崩壊はそれなりに(西側にとって)困った問題でもあるのだが。

In the long run, Russia and China are just as likely to fall out as to form a firm alliance. That is an even more alarming prospect.

というのがこの社説の締めくくりです。中露蜜月関係が続いてしまうのは困るが、かと言って武力衝突などされるのはもっと困るということですね。

2014年6月2日 up date

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