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国際問題コラム「世界の鼓動」

クリミア併合を教科書にする中国 南シナ海の中国の「領海侵犯」既成事実化はオバマ外交の新たな失点

会員  尾林賢治(元日経新聞欧州総局長)

ロシアのプーチン大統領の電光石火のクリミア併合が、中国の領土拡張政策の“教科書”になっている。南シナ海で中国のベトナム、フィリッピンへの「領海侵略」行為が始まったのは、ウクライナ紛争に世界の目が釘つけになっている間だった。同時に、オバマ米大統領がアジアを歴訪、尖閣諸島は日米安保条約の対象であることを明言、フィリピンとは22年ぶりに米軍が復帰する新軍事協定を締結、アジア回帰政策を強調して帰国した直後でもあった。

南シナ海での「侵略行為」は、明らかに中国が米国に仕掛ける「新型大国関係」に他ならない。クリミア併合と同様、南シナ海における中国の「領海侵犯」の既成事実化を許せば、オバマ外交に新たな失点が加わる。

ウクライナに世界の目が釘づけになっている間に実効支配強化

ロシアによるクリミア併合が引き金になり、ウクライナ東部2州は5月11日の住民投票で多数が独立を支持したとして、ロシアへの編入などに動き始め、ウクライナ政府と対立が激化、内乱状態に陥っている。プーチン大統領はクリミア併合に対し、国連もNATO(北大西洋条約機構)もEU(欧州連合)も共に無力であることを最初から見抜いていた。同時に13年9月10日「米国は世界の警察官ではない」と宣言したオバマ米大統領が軍事介入にも踏み切らないであろうことも見通していた。

南シナ海での中国の海底資源目当てのベトナム、フィリピンへの「領海侵犯」の手法はまさにプーチン大統領流を踏襲している。国際法に違反していようが、当事者国、近隣諸国、また米国がいかに抗議、非難しようとも、「口先介入」に過ぎないと見越して、武力を背景に既成事実を積み重ねて行く。そして、経済力も背景に、小国は大国の論理に従えと言わんばかりの帝国主義的行動を展開する。

南シナ海での中国の「領海侵犯」は以下3つの考え抜かれたタイミングに基づいている。まず第1は、世界の目がウクライナ問題に釘づけになっている間隙を縫っての行動だ。時計の針を少しばかり巻き戻してみると、中国がベトナム沖のパラセル(西沙)諸島で石油の掘削活動を始めると表明したのは5月3日。前日の2日には南部オデッサでは少なくとも46人が死亡する衝突事件が発生、ウクライナ東部2州では、5月11日の住民投票を強行しようとする親ロ派と、キエフの新政権との対立が激しくなるなど緊迫した状態か続いていた。

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2014年5月20日 up date

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