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オバマ大統領は国賓として来日したのに、夫人は娘の行事を理由に同行しなかった。明らかに中国に対する配慮だろう。ところが、ミッシェル夫人は3月、母親と娘2人、家族4人で習近平夫人の招待を受け約1週間、中国旅行を楽しんでいた。昨年の米中首脳会談の際、夫人がカリフォルニアに出向かなかったことに対する償いだと、中国は受けとめたに違いない。
安倍政権がTPP加盟に取り組み、沖縄普天間基地移転、防衛力強化、集団的自衛権の確立に汗を流しているのに対し、オバマ政権は特段の評価もしないばかりか、13年12月26日の安倍総理の靖国参拝に対し、在日米大使館を通じて「失望した」というコメントを発表した。外交上、相手国首脳に対し「失望した」などという言葉は、はなはだ礼儀を失しており、通常、用いない。ましてや、相手が同盟国であれば、そっと誰かが耳打ちするだけに留めるべきだろう。
中国や韓国の歴史認識批判に軽々に乗ることは、日米離反を期待する中国、韓国の思惑に乗じられることになる。オバマ政権は、安倍政権が右傾化して日中関係が悪化しているため、日中韓関係が悪化、アジアが安定しないことを不満に思っていると言われる。この誤った認識こそ、中国に乗じられる大本ではないか。
一連のオバマ政権の対中傾斜姿勢に対し、「日本と中国のどちらが同盟国かわからない」という声がワシントンのネオコン・グループから聞かれる。ニクソン政権時代、キッシンジャー元国務長官の腹心で沖縄密約に関わったハルペリン元米国務長官補佐官補は5月9日、日本記者クラブで「米中首脳会談は行うべきではなかった。間違いだった」と断じた。「新型大国関係」とは、中国と米国による太平洋の分割統治提案ではないのか。その中国の提案に米国が乗るとすれば、日本はもちろん、韓国、オーストラリア、フィリピンなどと米国との同盟関係は成立しなくなる。
13年11月23日、中国が一方的に尖閣諸島も圏内とするADIZ を東シナ海に設定した。これは、習近平主席と2日間も膝を突き合わせて会談しながら、オバマ大統領が平手打ちを食らったのも同然だ。そして、今回、アジア4カ国歴訪の直後というタイミングで、中国は南シナ海で「領海侵犯」行為をこれ見よがしに大々的に展開している。「挑戦的」というより「嘲り笑っている」という表現の方が当たっているのではないか。
オバマ大統領は自身の実りのない中国傾斜姿勢がいかに同盟関係を傷つけ、一方で中国を喜ばせているかに気付いているだろうか。13年6月25日の人民日報海外版は米国が安倍総理を冷たくあしらい続けていることに対し「オバマ大統領が安倍総理を冷遇したことは前代未聞の“快挙”となり、必ず歴史の記録に残るだろう」「安倍総理は12年12月の就任以来、訪米を希望したが多忙を理由に断られ続け、ようやく翌2月に首脳会談が実現したが、簡単な挨拶程度に留まり、中身がなく両首脳の共同記者会見さえ開けなかった」と実に的確な報道をしている。
人民日報だけではなく、アジア諸国も同様にオバマ政権の対日スタンスを冷徹に観察しているに違いなく、結局、そのことは米国に対する信頼感の低下につながっていくだろう。
南シナ海の中国の「領海侵犯」に対し、米国は一応、批判はするが、何ら有効な手立てを打てないで無為に日が流れている。中国が13年11月23日、東シナ海へADIZを設定したことに、翌24日、米国は戦略爆撃機2機をADIZ圏内に航行させ、抗議の姿勢を見せはした。その後も国防長官らが抗議したが、結局、中国は撤回していない。ADIZの運用を強化すれば、東シナ海は海も空も中国領になってしまう。既成事実化が進まないよう、撤回に向けてさらなる圧力をかける手段を講じなければならない
クリミア併合の既成事実化が進んだのと同様な軌跡を、東シナ海のADIZ, 南シナ海の「領海侵犯」がたどっている。中国の日程表には、次は尖閣を含む、東シナ海の「領海侵犯」がリストアップされているに違いない。イラン、シリア、クリミアに続き、南シナ海までもが、オバマ大統領の“弱腰”外交の失点に加わろうとしている。
ベトナム国境に中国軍が集結しているという情報がある。中国軍が在ベトナム中国人保護を理由に攻め込めば、益々ウクライナ情勢と似てくる。もし、不測の事態が起きたら、世界の目は陸上での中越戦に焦点が移り、南シナ海問題は一段と既成事実化が進むことになるのだろうか。