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オバマ大統領はフィリピンとの新軍事協定について、「同盟深化や地域の安定につながる」「単なる領土紛争への対応ではない」「南シナ海の領有権争いにおける主権では特定の立場はとらない」と語り、中国を刺激しないように最大限の気配りをみせた。
この米国の過剰なまでの中国への配慮にアジア諸国は、米国のアジア回帰政策に対して本気度を疑っている。その第1の理由は、13年6月7~8の両日、カリフォルニア州の保養地で8時間余の米中首脳会談が開催されたことだ。第2は、その4カ月後の13年10月7~8日インドネシアのバリ島で開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力)、続いてブルネイでのASEAN、EAS(東アジアサミット)の3つの重要な首脳会議を、オバマ大統領は議会との予算協議の難航を理由に、直前にキャンセルしたことだ。
一連の会議は習近平国家主席、李克強首相の存在感を際立たせる晴れの舞台になった。オバマ大統領が力強くアジア回帰政策を宣言し、ASEAN各国の首脳には個別に米中首脳会談についての説明があるものと期待していた諸国は肩透かしを食らった。
問題は米中首脳会談の中身だ。かつて自国が世界を支配した栄光の時代の復活を「中国の夢」として、しきりに物語る習近平国家主席は、オバマ大統領に対し、「新型大国関係」について熱心に提案したと言われるが、具体的な内容については、いまだに何の説明もない。日本を始め、同盟国は、詳細な報告があってしかるべきだと期待するのが当然だ。安倍首相も訪米して日米首脳会談の実現を懸命に働き掛けたが、多忙を理由に応じなかった。本人が多忙であれば、副大統領クラスの特使を派遣してもおかしくないほど、同盟国にとっては最重要問題であるにもかかわらずだ。
13年6月17~18日のアイルランドで開催されたG8 サミットの場での首脳会談の呼び掛けもオバマ大統領は拒み、安倍総理は会場での立ち話を許しただけだった。結局、13年9月7日、サンクトペテルブルグでのG20サミットの会場で30分だけの日米首脳会談が実現したが、通訳をはさんでの30分では挨拶程度に留まり、突っ込んだ話などはできない。
ようやく今回、オバマ大統領の訪日が実現し、尖閣諸島が安保条約対象地域であるとの言質を引き出すことに成功したが、その共同声明の発表を大統領のハーバード時代の学友だったフロマン通商代表部代表はTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の大筋合意に日本側が応じないことを理由に翌日まで強引に引き延ばした。米国は同盟国の安全保障より、自国の豚肉農家の利益を大事にして、豚肉の関税率引き下げを尖閣の人質に取ろうとしたのだ。安倍首相との会談も専らTPP問題が占め、「新型大国関係」の内容には触れずじまいだった。要はオバマ大統領には、心を開き真摯に同盟国の将来、中国との関係を意見交換する気がないのだろう。