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国際問題コラム「世界の鼓動」

クリミア併合を教科書にする中国 南シナ海の中国の「領海侵犯」既成事実化はオバマ外交の新たな失点

オバマ大統領のフィリピンとの新軍事協定に挑戦

第3がオバマ大統領のアジア歴訪の直後というタイミングだ。中国はこのタイミングを最も重視していると思われる。アジアにはNATOに匹敵する軍事同盟がない。日本を含め、ASEAN諸国は中国の脅威に対抗するには、自国の防衛力を強化することはもちろんだが、圧倒的な軍事力格差が存在する以上、米国の軍事力に頼らざるを得ない。その点、オバマ大統領が2011年11月、アジア回帰路線を打ち出してくれたのは、心強い限りだった。

しかし、その後のオバマ大統領が急速に対中国関係重視政策へ傾斜していることから、アジア諸国の間に米国のアジア回帰政策に対する本気度を疑問視する空気が強まっている。それだけに、今回、オバマ大統領のアジア4カ国歴訪はアジア回帰政策を改めてアピールする重要な意義があったが、中国は直後に南シナ海での「領海侵犯」行動を大々的に展開、米国の「アジア回帰」政策を打ち砕き、誰が支配者かを徹底的に思い知らす作戦に出た。

オバマ大統領は4月28日、米比新軍事協定を締結、冷戦終了と反米世論の高まりで1992年までフィリピンから完全撤退した米軍が22年ぶりに復帰することになり、米国のアジア太平洋回帰政策が後退していないことを印象づけた。新協定は10年で更新可能で、米軍は専用基地を持たないが、フィリピン軍の全基地を使用でき、補給・装備物資を常備する施設を建設、航空機、艦船の巡回派遣も可能になる。ただし、核の持ち込みは禁じられている。フィリピン憲法は米軍撤退に伴い、外国軍の駐留を禁止しているが、アキノ政権は“解釈”で米比新軍事協定締結に踏み切った。米国とフィリピンは5月5日から16日まで、早速、米比合同軍事演習を開始、米軍の復帰を精いっぱい中国にアピールした。

フィリピンは13年1月、スカボロー礁の実効支配も含め、中国が国連海洋法に違反し南シナ海のほぼ全域を自国領域とし、他国の主権を侵しているとして、2000ページの資料を添えて国際海洋法裁判所(ITLOS)に仲裁を求めた。中国はあくまで2国間で解決すべき問題だと断固拒否、裁判には応じず、フィリピン産バナナ,マンゴーなどの検疫強化(事実上の輸入停止)、レアアースの輸出禁止などの措置を繰り出し、仲裁申し立てを却下するよう圧力をかけ続けてきたが、フィリピンは耐えてきた。ITLOSは14年3月末、出頭を拒否している中国を代表して法廷に出席する裁判官を指名、いよいよ裁判が始まることになった。

アキノ大統領フィリピン大統領は中国をナチス・ドイツに例え、中国を非難している。5月21~23日、ベトナムのズン首相を招き中国対策を協議するが、ベトナムもITLOSに仲裁を求めるよう説得するに違いない。ITLOSの裁判長は2011年10月からに日本人として初めて柳井俊二元駐米大使が就任しているが(任期3年)、中国は日本人裁判長に対しどのようなクレームをつけてくるのだろうか。場合によっては、国連海洋法条約の批准国でありながら、脱退も辞さないとブラフをかけるかもしれない。

ITLOSは国連海洋法に基づき、紛争を力ではなく、法律の下で公平に解決する。当事国が判決に従わなければ、国連安全保障理事会に委ねられる。中国はロシアと共に安保理常任理事国で拒否権を持つ。ロシアがクリミア併合を無効とする安全保障理事会の決議案を拒否したように(3月15日、中国は棄権)、不利な判決には拒否権を発動できる。しかし、決議案は3月27日の国連総会で賛成多数で採択された。安保理決議と異なり、総会決議は法的拘束力を持たないが、自国の理不尽な行動が国際社会で白日の下にさらされる。中国は面子を重んじるだけに、フィリピンに仲裁申し立てを却下するように圧力をかけ続けたのだろう。周辺国に連携結束されるのを最も嫌う中国だが、ここはプーチン流に力による既成事実化をさらに進めるのだろう。

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2014年5月20日 up date

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