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中国は軍の艦船、海警局の公船などからなる82隻の大船団を送り込み、掘削装置の設置に取りかかった。ベトナム側は巡視船、漁業監視船など30隻を送り、立ち退き、中止を命じたが、中国側はベトナムの巡視船などに体当たり、放水を繰り返し、ベトナム側も応酬するなど、一触即発の緊張状況が続いている。ベトナム当局によると、17日時点で中国の船団は134隻に増えている。
ベトナムでは大規模な反中抗議デモが発生、中国の進出企業の工場が焼き打ちに遭い、中国人の死者も出る最悪の事態になった。17日まで3000人の中国人が帰国、18日には290人がチャーター機で帰国した。中国はさらに3隻の帰国船を送るという。中国はベトナム政府がデモをコントロールしないことを非難、進出企業の被害の賠償を求めると同時に、経済交流の停止、投資の引き上げなど対ベトナム経済制裁を開始する構えだ。
2012年「愛国無罪」と反日デモを煽り、日本企業に100億円以上の損害を発生させながら、謝罪も補償もしていない問題には頬かむりだ。
中越間の貿易は13年5兆円に達している。中国にとっては、この金額はわずか1%強だが、ベトナムにとっては2割近い比重を持つ。ベトナムは領海を侵略された上、中国からの賠償請求問題、制裁問題で苦しい対応を迫られる。
ベトナム側は中国とは昨年、両国首脳の相互訪問が実現するなど、友好関係が続いてきたのに「なぜこの時期に」といぶかるが、中国は力の空白を読み取るのに長けている。米軍がベトナムから撤兵したのを待ち構えていたように、1974年、パラセル諸島から南ベトナム軍(当時)を海戦で追い出した。74年1月に石油の埋蔵が確認された途端の素早い行動だった。
米軍がフィリピンのクラーク空軍基地およびスービック海軍基地から撤退、米比合同軍事演習も取り止めた1995年、フィリッピン海軍の隙を狙って、フィリッピンの排他的経済水域(FEZ)内にあるスプラトリー(南沙)諸島ミスチーフ礁の浅瀬に建造物をつくり、実効支配を続けている。さらに、さらに、中国はスプラトリ―諸島西北部のジョンソン南礁に飛行機の滑走路などを含む軍事基地を建設し始め、フィリピンが5月14日、抗議したら「自国領土に何を建てようがとやかく言われる筋合いはない」と突っぱねている。
中国は国際法上認められていない「九段線」を根拠に南シナ海のほぼ全域を自国の領海だと主張している。「九段線」は1947年に中華民国(当時)が地図上で引き、共産党政権引き継いだもので、82年の国連海洋法条約が署名される半世紀前から「歴史的に形成された中国の権利」だという立場だ。今回、中国は実効支配の既成事実をさらに積み重ね、自国の主張をさらに強固なものにする機会だと判断したのだろう。