NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

市民農園の価値

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

英国庶民の生活上の風物詩のようなものにallotmentsがあります。日本でいうと「市民農園」とか「日曜菜園」とか言われるものです。大体において地方自治体が市民向けに農地を貸出し、利用者はそこでキュウリやトマトのような野菜を作って食べるという、あれです。日本ではいつごろ始まったのか知らないのですが、英国におけるallotmentsは19世紀に始まっており、20世紀初頭(1908年)にはSmall Holdings and Allotments Act(小自作農地・市民農園法)という法律ができて、地方自治体は市民のために小規模農地を提供しなければならないことになった。それなりに歴史があるのでありますね。

Farming-on-lineという農業関係のサイトに

Are allotments the key to farming sustainably?

市民農園こそが持続可能農業のカギを握るのでは?

という記事が出ています。最近、シェフィールド大学の研究者たちが、いわゆるプロの農業に使われている農地の土壌とallotmentsの土壌を比較調査したところ、後者の方がはるかに作物を育てる土壌としての質が高いことが分かったのだそうです。

北イングランドに人口約30万のレスター(Leicester)という町があるのですが、シェフィールド大学の科学者たちが市内にある15か所の市民農園の土壌と公園、庭園、それと付近の農場のそれを比較したところ市民農園の土壌の方が有機炭素、窒素などの含有量がはるかに高いという結果が出た。さらにプロの農場の土は市民農園のそれに比べると固くて栽培が難しいようなものになっているのだそうで、調査に当たった研究者は「市民農園の利用者が極めて効果的に土壌の管理を行っている反面、現代農業のやり方がいかに土をダメにしているかが分かる」と言っています。

Farming-on-lineによると、現在英国中にあるallotmentは約33万か所、合計面積は8000ヘクタール(8000万平米)、最近になって人気がうなぎ上りで9万人が「待機者」として空くのを待っている。英国におけるallotmentsの最盛期は第二次世界大戦中で、「勝利のために掘る」(Dig for Victory)というキャンペーンまで行われたりして、レスターでも3世帯に1つが市から提供されたallotmentで農業にいそしんでいた。それがいまでは3200か所だけ、市が所有する緑地帯のわずか2%しかこのために使われていない。

将来、世界的な食糧不足が起こる可能性があるということが語られているけれど、一つの可能性として、都市部に近い空き地を利用した「市民農園」を奨励することがあるのではないか・・・とこの調査は提案しています。シェフィールド大学によると、現在世界中で約8億人の都市生活者が市民農園に従事しており、食糧生産に大きく貢献しているのだそうで、今後は農業の一層の大量生産を進めるよりも自分で育てる都市農業を促進するべきだと言っています。

2014年5月20日 up date

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