NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

米英特別関係の崩壊?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

「キャメロンの英国はアメリカの尊敬を失った」(Cameron’s Britain has lost America’s respect)という見出しの記事がFinancial Times (FT)のサイトに出ています。書いたのは同紙のワシントン駐在コラムニストのエドワード・ルース(Edward Luce)という人で、イントロは

The ‘special relationship’ has been compromised by one side that is no longer sure of who it is

となっている。「英米の”特別な関係”が一方の側によって崩されつつある」というのですが、その「一方の側」というのが「キャメロンの英国」であり、自分が何者であるかが分かっていない(no longer sure of who it is)英国であると言っている。

英国がアメリカに「自分が何者であるかが分かっていない」と言われるのはこれが初めてではない。1950年代、トルーマン大統領であった時代のアメリカの国務長官にディーン・アチソン(Dean Acheson)という人物がいたのですが、アチソンが口にした

英国は帝国を失ったが、未だに(国際社会における)役割を見つけ出していない。

Britain has lost an Empire and has not yet found a role.

という言葉は当時の英国人にとって屈辱そのものであったものです。英国はいつまで自分が超大国だと思っているのだ!と嘲笑されたようなものだから。

それはともかく、いま英国がアメリカの尊敬を失ったというのはどういうことなのか?エドワード・ルースが最初に挙げているのが英国の軍隊(army)の規模です。アメリカが制服組が60万人なのに対して英国は10万2000人、それが来年から8万2000人にまで縮小される。これだと戦場に赴く英国の兵士の数は多くても1万人であり、(例えば)アフガニスタンのような戦場では村落の警察の役割程度しか果たせない。となるとワシントンにおける英国の影響力は持続などするはずがないということです。

兵隊の数だけではない。軍事力のハード部分にも英国の「縮小」現象がある。典型的なのは航空母艦で、20世紀初頭にその発明が為されて以来、英国はいま初めて一隻の航空母艦も所有していない。2019年には回復するとされているのですが、来年には防衛力の見直しが行われることになっており、しかも選挙の年でもある。となると2019年に航空母艦が帰ってくるというのもあてにならない。

軍事力は減らされるにしても英国には優れた情報収集能力があり、その分野では米英は緊密な協力関係にある・・・と言う人がいるかもしれないけれど、それが故にヨーロッパでは(例えば)ドイツなどが英国の情報組織をアメリカの出先機関と見なしたりしている。そのことによって英国がヨーロッパで浮いた存在になりがちであるけれど、それがアメリカとの関係にも好ましくない影響を与えている、とエドワード・ルースは言います。つまりアメリカは、サッチャーの英国がそうであったようにヨーロッパを動かす存在としての英国を望んでいる。なのに、ああそれなのに、キャメロンときたら、次なる選挙で保守党が勝てば2017年には英国のEU残留の是非を問う国民投票をやろうと約束までしてしまった。EUから抜けた英国なんて・・・アメリカには全く魅力がない。

スコットランド独立はアメリカでは「まさか」という意見が圧倒的なのだそうですが、これから国民投票が行われる9月までに独立派が支持を広げたりしようものなら、英国はEUから離れるかもしれないけれど、スコットランドに「離婚」されてしまう。どこへ行くのか?と疑問に思わざるを得ない。そんな国と同盟関係など保っていけるのかという疑問が出てくるのは当たり前だということですね。

エドワード・ルースはまた英国政府の対ロシア・対中国の姿勢もワシントンでは疑問視されていると言っている。ロシアに対してキャメロン政権が、アメリカが望むほどには強硬な姿勢をとろうとしないのはBPがロシアと共同でシベリア開発に取り組もうとしていることに原因があると言われているし、昨年12月のキャメロン首相の中国訪問は「全くお粗末」(disastrous)と表現されている。100人以上もの産業関係者を伴っての訪中であったわけですが、

英国の首相ともあろう人物が、物売り以外に何の課題もなしに中国へ行くなどと考えた人はいなかったはず。

Who would have thought that a British prime minister would go to China with no agenda other than selling things?

というのがアメリカ政府高官のコメントであったとのことであります。

エドワード・ルースは最後に元首相のトニー・ブレアに対するアメリカ人の評価について語ります。ブレアはブッシュ大統領の時代におけるアフガニスタンやイラクにおける対テロ戦争について献身的に協力し、アメリカ人の間ではブッシュ以上に人気があった。それがいまでは世界中を飛び回って外国政府のアドバイザーを務めて法外な金銭を稼ぎまくる「あくどい商売人根性」(tawdry salesmanship)を振りまいている。アメリカの元大統領はチャリティの仕事はするけれど、ブレアのような行動はとらないだろうということです。

もしブッシュ元大統領がクエートの「民主化」について助言を与えて何百万ドルも稼いだりしようものなら非難轟轟ということになるだろう。同じことをブレア氏がやると、みんな肩をすくめてみせるだけなのだ。いまやブレア氏の行くところに英国の旗がついて回っているという感じなのだ。

There would be an outcry if Mr Bush took millions of dollars from Kuwait to advise it on “democracy”. When Mr Blair does it, people just shrug. Alas, where Mr Blair goes, the flag now seems to follow.

というのがルースのエッセイの結論です。

2014年4月22日 up date

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