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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
英国の移住問題諮問委員会(Migration Advisory Committee)という独立機関がこのほど外国人の永住権に関する制度の変更を提案する報告書を内務大臣に提出したのですが、「永住権をオークションに」という提案がユニークであるということでメディアの話題になっています。現在のところ英国への永住権を獲得する手段として、英国に投資するというのが一般的なものとしてあります。投資する額は最低で100万ポンド(約1億3000万円)から上は1000万ポンド(13億円)まである。
これらのおカネを英国企業(として登録されている会社)に投資するか政府発行の公債を購入することで永住権をもらえる。金額による違いは何かというと、申請してから実際にもらえるまでの待機期間です。100万ポンドの場合は5年、500万の場合は3年、1000万ポンドを投資する場合は2年間、それぞれ何らかの方法で英国に滞在する必要があるわけです。とてつもない金額ですよね。それでもThe Economistによると2009年から2013年までの4年間で1,628件の永住ビザが外国人に発行された。最も多かったのはロシア人(433件)と中国人(419件)だったのですが、それ以外にもアメリカ人、エジプト人、インド人、イラン人らがこの方法で永住権を取得している。
ただ、現在の制度には大いなる欠陥がある(deeply flawed)のだそうです。まず最低必要投資額の100万ポンドというのは20年前の1994年に決められてから一度も変更(値上げ)されていない。その間の物価上昇などを考慮すると20年前のままというのはおかしいという点。さらに建て前としては英国企業への投資または政府の公債購入のいずれかを選択しなければならないとなっているけれど、実際には投資家はより安全な公債購入にあてる傾向が強い。100万ポンド相当の公債を買って5年間待っているだけで永住権がもらえるということは、5年間待って、晴れて永住権を入手したあかつきには購入した公債を売ってしまえば100万ポンドは利子がついて戻ってくる。金持ち外国人が得するだけで、英国にはさしたる得にはならない・・・というのが移住問題諮問委員会の意見だった。
そこでこの委員会が提案したのは、まず最低投資額を100万ポンドから200万ポンドに引き上げること。さらに投資の対象をベンチャーキャピタル関連計画やインフラ整備のための国債とし、場合によっては公債を投資の対象からはずすことも考える・・・このあたりまではごく無難な改革案なのですが、注目されたのは「特別ビザ」(premium visas)なるものの導入を提案したことです。何が「特別」なのかというと、待機期間をうんと短くする、複雑な手続きを簡素化するなどの特典が与えられるというわけです。さらに「特別ビザ」は最低競売価格を250万ポンドとするオークションを通じて与えられる。落札価格が400万ポンドで決まった場合は、最低競売価格に対する上乗せ分(150万ポンド)は、宝くじ収入と同じように社会的に有意義な目的のために使われるというものです。