NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

欧米の子供たちが算数に弱いわけ

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

何号か前のむささびジャーナルでOECDの国際学力比較のことを書いたことがありますよね。あの比較の中の「数学」ですが、1位から7位までを上海、シンガポール、台湾などアジアの国が占めた(日本は7位)のですよね。英国は65カ国中の26位、アメリカは36位だった。

子供の学力比較などはどうでもいいことですが、ピーター・グレイ(Peter Gray)というアメリカの心理学者がPsychology Todayというサイトの中で語っている「なぜ数学の分野でアジアの子供たちが欧米のそれを上回ってしまうのか?」という話題は単なる茶飲み話として面白いと思うので紹介します。グレイのエッセイは

アジアの(子供たち)の数学における優位性は、ある部分は「数字の名前」(number names)に違いがあることが原因か?

Does Asian math superiority derive partly from a difference in number names?

という問いかけで始まっています。「数字の名前」とは「数字の読み方」という意味です。1, 2, 3は英語ではone, two, threeであり、日本ではイチ・ニ・サンです。つまり数字の読み方の点でアジアの子供の方が有利なのではないかと言っている。グレイのエッセイの中で「アジアの子供たち」という場合、韓国・日本・中国の子供たちのことを指しているのですが、分かりやすくするために、むささびはあえて「日本の子供」という表現を使います。

で、「数字の名前」の何がそれほど問題なのか?英語で1, 2, 3, 4, 5…10をどのように読みますか?one, two, three, four, five, six, seven, eight, nine, tenですよね。日本語は?イチ・ニ・サン・シ・ゴ・・・ときて最後は「ジュウ」ですが、問題はそこから先です。11, 12, 13, 14, 15, 16…20を声に出して読むと

日本語:ジュウイチ、ジュウニ、ジュウサン、ジュウシ、ジュウゴ、ジュウロク・・・ニジュウ

英語:eleven, twelve, thirteen, fourteen, fifteen, sixteen …twenty

となる。ピーター・グレイによるとこの時点でアジア(日本)の子供たちは英語圏の子供たちよりも有利なのだそうであります。何故なら日本語の数え方だと、1~10の読み方さえ憶えてしまえば11以後はそれの繰り返しになるけれど、英語ではそうはいかないからです。日本語の11(ジュウイチ)をそのまま英語にすると「ten-one」となりますよね。12はten-two・・・19はten-nineで20はtwo-tens(10が二つ)となる。いずれにせよ1~10以外のものは出て来ず、99までは常に10(ジュウ)という数字をベースにした読み方になっている。ニジュウ、サンジュウ、シジュウ・・・こういうのをピーター・グレイはbase-ten patternとかbase-ten systemと呼んでいる。つまり10進法のことですよね。

グレイに言わせると、アジア流の11(ジュウイチ)という数字は、読み方からしても「ジュウ」と「イチ」の組み合わせであることが明らかです。20(ニジュウ)は「二つの10」(two-tens)であることが単純に分かる。では21は?「二つの10に1を足す」(two-tens-one)に決まっとるがね。87は?「八つの10と7」(eight-tens-seven)以外に何があるってのさ?

ところが英語の場合は、子供たちがいくらoneからtenまで正確に記憶しても、11のelevenにはone~tenの影も形もない。12(twelve)にはtwoのtwは出てくるけれど、その次に来るのはelveという見たこともないような文字の並びです。

英語による数字の読み方では、(例えば)11は10に1を加えたものであり、12は10に2を加えたものであることが誰の目にも分かるというほど明確には示されていない。

There’s nothing in these names that tells us explicitly that eleven is one added to ten and twelve is two added to ten.

つまり欧米人にとって11がelevenであるということは、記憶するっきゃない。日本の子供のように「10の次だから11」という規則性のない世界で数字に取り組まなければならない。20は理屈抜きにtwentyであって、「10が2つだから20」という理屈は存在しない。72(seventy-two: むささびの年齢)は「10が7つと2」という論理で分かるということがない。とにかく暗記、これっきゃない!

アメリカの子供と日本の子供に34+12という足し算の問題を出してみる。ピーター・グレイによると、アメリカの子供はこの問題を”thirty-four plus twelve”と読むけれど、日本の子供の読み方を英語に直すと“three-tens- four plus ten-two”となる。アメリカ流の読み方の中には答えに繋がるヒントめいた情報がなにもないのに対して、日本語の場合は、この二つの数字の中に「10が4つと1が6つ」あり、足し算の答えが46であることがきわめて自然に分かるようになっているというわけです。

ある教育学者がアメリカ、フランス、スウェーデンの子供とアジア(日本、中国、韓国)の子供を対象に数字の実験を行ったことがある。年齢はみんな6才で小学1年生。それぞれの子供に紫色の積み木と白い積み木を持たせ、紫色のものは一個で10点、白いものは一個で1点であり、白の10個は紫の1個に等しいということを説明する。そうしたうえで、11, 13, 28, 30, 42という数字になるように積み木を組み合わせて欲しいという問題を出す。

その結果、アジアの子供の8割が紫の積み木(10点)を正しく使うことで、簡単に組み合わせることができたけれどヨーロッパの子供で同じようにできたのは1割に過ぎなかったのだそうです。アジアの子供は42という数字を作るのに紫を4個と白を2個という組み合わせを簡単に作ってしまったのに、欧米の子供たちの中には白い積み木を42個集めた子が少なからずいたのだそうです。

学校で正式に数の計算を習う前からアジアの子供たちは有利なスタートを切ることができるということだ。彼らは暗黙の裡に10を基本にするbase-ten systemが分かっているのだ。

So, even before they begin any formal training in numerical calculations, the Asian children already have a head start – they implicitly know the base-ten system.

とピーター・グレイは言っています。

2014年2月11日 up date

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