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国際問題コラム「世界の鼓動」

英国はどこへ行くのか?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

11月9日付のThe Economistが英国特集を掲載しています。その総論とも言えるエッセイが巻頭に載っているのですが、これからの英国の進むべき方向について

Little England or Great Britain?

小さなイングランドか大きな英国か?

という選択肢があると言っています。英国にあまり関心のない人には意味不明な見出しかもしれません。この見出しに続くイントロは次のように書かれています。

The country faces a choice between comfortable isolation and bracing openness. Go for openness

英国にとっての選択肢は快適なる孤立かしっかりした開放性かのどちらかである。開放性に向かって進むべきだ。

つまり最初の見出しに言う「小さなイングランド」は「快適なる孤立」を指し、「大きな英国」は「開放性を堅持する国」という意味になります。そしてThe Economistは後者を目指して進もうではないかと言っている。

どの国も常になんらかの選択肢に迫られているわけですが、英国の場合は、来年あたりから国の将来にとって重大な影響を持つと思われる出来事が4つ待ち構えています。まず来年(2014年)5月に欧州議会議員(Members of European Parliament: MEP)の選挙があります。英国に関しては、EUからの脱退を主張する英国独立党(UKIP)が大躍進するのではないかとされている。同じく来年9月には、英国にとっては欧州議会選挙どころではない重大な政治的行事が控えている。スコットランドの独立に関するスコットランド人の国民投票です。そして再来年(2015年)には下院の選挙があるのですが、そこで保守党が勝利すると2年後の2017年末までにはEUへの残留の是非を問う国民投票が行われることになっている。

これら4つの政治的な出来事の中で、国際社会における英国の立場に最もストレートに影響があると思われるのがスコットランド独立だろうとThe Economistは言っている。現在のUnited Kingdomからスコットランドがいなくなると、地理的に英国の3分の1がなくなるのだそうですが、それよりも英国という国の国際的な影響力が大いに縮小されるだろうと言うわけです。

A country that cannot hold itself together is scarcely in a position to lecture others on how to manage their affairs.

自分の国さえ統率できないような国は、とても外国に対して国の治め方について説教をたれるような立場にはなれない。

言えてる・・・?

英国がEUを離脱するかどうかの国民投票(2017年)ですが、これはもともとEU残留を唱えているキャメロンが保守党内の「小さなイングランド人」(EU離脱を唱える人たち)をなだめるために打ち出したものです。英国がEUを離脱するということは、EUの将来についての英国の影響力はゼロに帰するということです。英国の対外輸出の半分を占めるEUの今後について発言権ゼロというのは望ましい状態なのか?また、もしキャメロンの率いる保守党が2015年の選挙で敗れた場合でも国民投票自体は行われるのでしょうが、そうなると保守党分裂の可能性もあるとThe Economistは言っている。

そしてGreat Britainの道を進むために必要なのはリ-ダーシップであるとThe Economistは言うのですが、それは「世論をリードするということであり、びくびくしながらそれに従うということではない」(they should try to lead public opinion, not cravenly follow it)という意味です。キャメロン首相にとって、そういう意味での「リ-ダーシップ」を発揮できる分野の一つが移民政策(immigration policy)です。現在の英国では移民に対する拒否反応が極めて強いのですが、移民政策における自由化は産業界にとっても必要なもの。特に東欧からの移民労働力は非常に生産性が高いことが証明されている。そのあたりのところはキャメロンも(労働党の)ミリバンド党首も分かっているのに「国民の間に広まってしまった反移民感情にびくついてしまっている」(they are cowed by widespread hostility to the influx)というわけです。

EUについては、もちろん残留して現在の官僚制を打破するために戦うべきであり、そこから離れてしまっては何もならない。スコットランドの独立問題はスコットランド人が決めることであり、キャメロンにもミリバンドにもどうしようもないことであるけれど、独立スコットランドが北海油田やガス田からの収入で生きていけるのは最初だけであり、United Kingdomから離れたスコットランドは国としてあまりにも小さすぎてさまざまなショック(例えば石油価格の下落など)にとても耐えられるとは思えない・・・とThe Economistは主張している。

というわけで、英国の将来については

Britain once ran the world. Since the collapse of its empire, it has occasionally wanted to curl up and hide. It can now do neither of those things. Its brightest future is as an open, liberal, trading nation, engaged with the world. Politicians know that and sometimes say it: now they must fight for it, too.

英国はかつて世界を運営したこともあった。大英帝国が滅んで以来、英国は尻尾を巻いてどこかに隠れてしまいたいと思ったこともあった。しかし現在の英国は世界を運営することもできないし、尻尾を巻いて隠遁生活というわけにもいかないのだ。開放的で自由な貿易立国として世界にかかわること・・・そこにこそ英国の最も明るい未来があるのだ。政治家たちはそのことを分かっているし、それを口にすることもある。いまやそのために戦うときでもあると言えるのだ。

というのがThe Economistの結論です。

2013年11月18日 up date

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