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国際問題コラム「世界の鼓動」

ラウンダバウトとフェアプレイ精神

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

英国におけるクルマ生活では当たり前の光景ではあるけれど日本では見られないものの一つに「ラウンダバウト」(roundabout)があります。上の図のようなもので、要するに交差点に信号をつけて交通規制する代わりに、交差点そのものを回廊のようにして、ドライバーは自分の出たい出口を出ることで、結果的に交差点を通過したのと同じことになるという仕掛けであります。日本でいうと「ロータリー」というのがこれに近いかもしれない。

ラウンダバウトにさしかかったら右側から来るクルマに注意する。右方面から来るクルマに絶対的な優先権があるので、それをやり過ごし、自分の番がきたら回廊の中に入る。上の図(五叉路)の場合、最初の出口を出るということは、普通の交差点でいう「左折」、二番目が「直進」、三番目が「やや右折」、四番目が「右折」ということになる。どの出口を出るにせよ、ラウンダバウトを出るときは常に「左折」であり、回廊の中には信号の類はない、というより必要がない。ラウンダバウト自体が常に時計回りで終わりのない一方通行だからです。対向車がない。

英国で最初のラウンダバウトは、1909年にロンドン郊外のLetchworth Garden Cityという町に出来たものだとされているのですが、英国全体でどのくらいの数のラウンダバウトがあるのかはネットを調べても出ていませんでした。どなかたご存じの方は教えてください。ただ10月5日付のThe Economistによると、現在世界中にあるラウンダバウトの数はおよそ6万か所だそうです。1997年当時は3~4万か所だったのだから、ここ10数年でほぼ倍増ということになる。全体の半数がフランスにあるのだそうですね。アメリカでも10年前までは数百か所だったのが、今では3000か所にまで増えている。

信号式十字路で信号が赤の場合、他のクルマが一切来ないと分かっていても一応信号が青になるまで停止していなければならないけれど、ラウンダバウトだとそのような無駄はない。右方向を見て、クルマが来ない(もしくは来ていてもはるか向こうである)場合は運転手の自己判断で入ることができる。信号式十字路の信仰者からすると、「運転手の自己判断なんてとんでもない」ということになる。しかし米国運輸省によると、信号式十字路をラウンダバウトに変えたところ、車同士の衝突事故が35%、傷害事故が76%、死亡事故が90%も減ったという数字が出ている。The Economistは、運転手の自己判断が幅を利かせる世界では「協力が対立に勝利する」(triumph of co-operation over confrontation)ようになるのだと言っている。運転手同士の譲り合いが生まれるのだということです。

但しラウンダバウトがうまく稼働するためには、ドライバーが「英国流の美徳」であるフェアプレイの精神を守り、それなりのルールを順守する必要がある。残念ながら必ずしもそういう場合だけではない。

Yet roundabouts tend to work only when motorists observe the British virtues of fair play and stick to the rules. Alas, this is not always the case.

譲り合いの精神が発揮されないとラウンダバウトは渋滞の原因にもなる。その例としてケニアの首都、ナイロビにあるラウンダバウト(4か所ある)がある。とにかくしょっちゅう渋滞なので交通整理の警官が出動したりしており、雨が降ると警官が持ち場を離れて雨宿りしたりするから余計に渋滞がひどくなるらしい。The Economistによると、いわゆる発展途上国では交通量が多い大都会のど真ん中にラウンダバウトが作られたりすることがあり、運転手同士のケンカが起こったりするし、通行人にとっては信号式交差点よりも危険な場合が多いのだそうです。

ラウンダバウトを作るには当然のことながら、それなりの面積の土地が必要であるし工事費もかかるのですが、信号式交差点の場合、信号機の維持費と電気代で(アメリカでは)一か所年間10万ドルかかるところもあるのだそうです。場所によってはラウンダバウトの方が安上がりということもあるかもしれない。

上の写真は、南東イングランドにあるSwindonという町の近くにあるラウンダバウトの標識看板です。「マジックラウンダバウト」と呼ばれているのですが、5つの小さなラウンダバウトが円形に繋がって大きなラウンダバウトになっている。看板を見るだけで車酔いしそうです。どうせ出口が5つであることに変わりはないのだから、大きなもの一つでいいのでは?何が面白くてこんなもの作ったんですかね。

ちなみに(ラウンダバウトの有無とは直接関係はないけれど)英国は国際的に比較しても交通事故による死者数が非常に少ない国なのですね。WHO(世界保健機構)によると、人口10万人およびクルマ10万台あたりの交通事故死者数は次のようになっています。いずれも2010年の数字です。

10万人あたり 車10万台あたり
スウェーデン 3.0 7
英国 3.7 5.1
ドイツ 4.7 7.2
日本 5.2 6.8
フランス 6.4 9.57
アメリカ 10.4 15
韓国 14.1 23.4
中国 20.5 36

2013年10月30日 up date

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