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「アジア的な知恵」をどう具体化していくかという観点から、習主席の対インドネシア文化交流強化策のなかに「イスラム指導者を中国に招へいする」という提案が含まれていることは重要である。
経済発展により拡大し社会的存在感を増す中間層のなかで「イスラム化」現象が進行中であることは本通信でも再度にわたって書いてきたが、オピニオンリーダーとしてイスラム有識者の発言力はますます高まっている。中国がそのパブリック・ディプロマシーの重点的訴求対象層にイスラム有識者を設定するのは、自然な流れである。
こうした視点で習主席の国会演説を読むと、両国の交流の原点として、鄭和の大航海に言及していることにも、隠し味のようにインドネシアのイスラム有識者へのメッセージが含まれていると感じる。
鄭和。15世紀、明の最盛期に永楽帝の命により、東南アジア、インド、中近東、アフリカ東岸(現在のソマリア付近)まで大航海した偉大な航海家は、雲南出身のイスラム教徒なのだ。
鄭和が生きた14世紀から15世紀にかけては、東南アジアにおいてイスラム化が進んだ時期でもある。近年の研究では、この時期に東南アジアのイスラム布教において、華人も一定の役割を果たしていることが指摘されている。
「テンポ」誌(2012/2/19)に掲載された、イスラム系多文化主義活動家アフマッド・ファウジ氏のコラムによれば、鄭和の航海団には彼のみならず数千の中国のイスラム教徒が含まれており、この航海は政治、経済のみならず武力によらない平和的手段でのイスラム布教に成果をあげたという。
20世紀初頭、華人商人に対抗するために民族主義組織「イスラム同盟」が結成されたことに始まり、「9月30日事件」後のイスラム組織による華人虐殺加担に至るまで、イスラムと華人及び中華文化の相性は良くないもの、と語られてきた。
そうした認識を変える、イスラムを触媒にした中国とインドネシアの交流史の再評価が、きらびやかな首脳外交の足元で静かに進行しているのである。(写真:ジャカルタの中華街で見かけた中国留学勧誘広告)