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国際問題コラム「世界の鼓動」

ジャカルタ通信:「同胞外交」の試み

「ディアスポラ外交」論 

 ここまで述べてきたインドネシア外交の企てを、インドの元ドイツ大使で外交研究者のキシャン・S・ラナが論じている「ディアスポラ外交」論に基づいて、より広い文脈で捉えなおしてみたい。(論考集『関係構築、ネットワーク、協働型パブリック・ディプロマシー』Relational, Networked and Collaborative Approaches to Public Diplomacy 70-85頁)

 「ディアスポラ外交」(Diaspora Diplomacy)は、多様な主体が外交に参画する今日に派生した新しい外交の方法論である。ラナは「海外に居住する同国人コミュニティーに、居住先国との関係構築のために母国へ寄与してもらうべく働きかける外交活動」と定義している。

 「海外に居住する同国人コミュニティー」とは誰を指すのか。ここでラナが「移住者」を意味する英語migrantとdiasporaを使い分けていることが重要だ。ラナ曰く「migrantが出身国についての記憶を有し、かつ何らかの関わりを保持し続けるならば、彼らはdiasporaとなる」。言葉を換えれば、「ディアスポラ」とは、「出身国、出身国民に対して『同胞』意識を持ち、行動する人々」といえよう。Diasporaは、紀元前1世紀のバビロン捕囚後、パレスティナを追われ、世界に離散したユダヤ民族の苦難と彼らの民族的団結に由来する古い語源をもつ言葉だ。ここでは「ディアスポラ外交」は、「同胞外交」と仮に訳しておく。

 「同胞外交」が働きかけの対象とするのは、海外一時居住者(将来帰国することを前提に海外居住している人びと、例えば企業駐在員とその家族、留学生)、海外移住者、移住者の子弟等である。特に海外移住者の数は拡大の一途をたどっている。国際移住機関によれば、2010年時点で、世界で2.1億人が移民一世として国境を越えている。2000年の1.5億人から急拡大を続けているのは、まさしくグローバリゼーションの潮流は、なんびとも抗えない大河となりつつあることを示している。そういう世界に私たちは生きているのだ。当然のこととして、主権国家のあり方も変わっていかざるを得ない。

 「同胞外交」を企図し国益増進を図ろうとするのは一義的に、海外一時居住者・移民者の出身国側である。しかし受入れ国側も彼らとの関係を活用して外交成果をあげることができる。また国家のみならず非国家アクターも受益者となり得る。国益のゼロサムゲームではない、国家を超えた相互互恵の関係作りをできることが、パブリック・ディプロマシーの一種としての「同胞外交」の妙味、とラナは述べる。

 ラナの主張を体現する青年がいる。スリウィジャヤ・サプトラ・アリは26歳、映像制作会社キュリオ・アジアのチーフ・プロデューサーだ。私は親しみをこめて「ジャヤ君」と呼ばせてもらっている。ジャヤ君は、2004年から2010年まで東京国際大学で国際報道を学び、留学中に「キュリオ・アジア」社を立ち上げた。インドネシアに貢献したいと考えて帰国した「頭脳流入」組である。

 現在、彼らが日本市場進出を目指す日本・インドネシア合作映画「武士道スピリット」の撮影が佳境に入っている。インドネシア観光・創造経済省は、同国映画の海外発信を促進しようという目的からジャヤ君とその仲間に目をつけて、同社への支援に前向きな姿勢を見せている。「頭脳流入」者が持つ海外ネットワークに目をつけた「同胞外交」の一例といえる。

「武士道スピリット」制作発表で-ジャワ君と

「武士道スピリット」制作発表で-ジャワ君と

 同時に、ジャヤ君らは、インドネシア撮影クルーによるオール日本ロケ・テレビ番組「心の友」を制作・放送している。つまりインドネシアにおける日本文化紹介の観点から見ると、ジャヤ君は国際交流基金の力強い援軍でもあるのだ。「頭脳流入」した青年に活躍の場を与えることで、日本、インドネシア双方に協働のネットワークが拡がろうとしている。

 「同胞外交」への関心は世界的に高まっている。

 特に中国、インドなど膨大な海外移民を送り出してきた途上国が、外交ツールとして活用することに積極的だ。今回の「在外インドネシア人会議」も、こうした「同胞外交」に連なる試みといえよう。

 

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2013年9月24日 up date

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