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―行のご帰国後、上海での歓迎準備委責任者の趙啓正副市長は、「市内ご視察であれほどの徐行は意外だったが、30万乃至40万人もの市民が自発的に参加したことも異例で、ご訪中のご成功を嬉しく思う」と述べられた。
翌春、ご訪中のお気持ちを御詠みになられた両陛下の御歌二首を拝読した。
天皇陛下の御歌「上海」
えがおもて 迎えられつつ 上海の 灯ともるまちを 車にてゆく
皇后陛下の御歌、歌会始めのお題「空」
とつくにの 旅いまし果て 夕映ゆる ふるさとの空に 向かひてかへる
ご訪中から帰国の機中で、両陛下には西に沈む真っ赤な太陽に、富士山が黒く、くっきりく浮かぶ、余りに美しい景色に感嘆なされたに違いない。
私としては長い外交官生活の中で、この天皇皇后両陛下のご訪問はまことに忘れがたい体験であり、それが日中の友好・親善の向上にどれだけ大きな貢献をしたかは、いまでも鮮明に記憶に残っている。それだけに、この数年来の両国関係の悪化は残念至極と言わざるを得ない。20年以上も前の天皇訪中をあえて回想したのは、両国がいま一度当時を静かに振り返ってほしいと切に思うからである。
「外交は内政の延長」という考え方に立てば、中国の対日強硬姿勢の背景には、数々の内政課題が複雑に絡んでいるとも考えられるが、同時に、総書記就任以前に、天皇拝謁を希望し、訪日した現政権の最高指導者・習近平氏には、両陛下の詠んだ訪中の感慨の心を知っていただきたいとも秘かに願っている。
日本のアジア外交の支柱である「心と心の対話」がうまく復活でき、未来志向の中で「ホワンイン、ホワンイン」の大合唱をもう一度再現してほしい。