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国際問題コラム「世界の鼓動」

天皇ご訪中の回想――あの熱烈歓迎ぶりが懐かしい

会員 蓮見 義博

1972年 の日中国交正常化以来、両国は十年の節目毎に政府、民間の主催で様々な記念の祝賀行事を行い 改めて日中の友好を誓い合うことを慣例にしてきた。四十周年を迎えた昨年は、 尖閣をめぐり関係がひとしお悪化し、企画した多くの記念行事が中止となった。極めて残念である。初めての十周年の82年にも突如「教科書問題」が浮上して、民間行事が中心にならざるを得なかった。どうも節目の年の両国関係はあまり好ましい政治環境に巡り合うことがないようである。

しかし、そんな中でも、1992年 の二十周年記念では、「天皇陛下ご訪中」という歴史的大行事が実現 した。ご訪中の是非をめぐっては国論が二分し、長期の議論の末に厳しい情勢の中で決定されたが、この天皇訪中は両国の親善友好に大きな成果をあげた。当時の中国は1989年の天安門事件をめぐり国際的に孤立感を深めていた一方、指導者鄧小平氏の大号令の下、改革・開放路線が本格的に加速しようとしていた時期である。そのことから中国は日本との関係を重視し、国際社会で相応の立場を回復したいという政権の思惑も秘めながら、日本の天皇招待を決断したのかもしれない。

その意図はともあれ、私が総領事として在勤していた上海が天皇の地方視察のひとつに選ばれ、私ども現地公館でも、日中関係にとってご訪中が意義あるように尽くすべく万端の準備を進めた。 上海では、壮大な「浦東地区開発計画」が緒に就いた時期で、市政府は 早くから上海ご視察を希望していた。「未来志向の日中関係」をめざそうという雰囲気が中国では強く、ご訪中をめぐる治安上の懸念も払拭されていった。

一般市民とのお触れ合いがこの訪問の最大テーマとなり、文化・スポーツ界の代表、次世代を担う大学生 、農民一家など市民との自由な対話を重視して滞在行事を調整した。 10月 27日の―行ご到着直後から、両陛下はご休息もなく、タィトな諸行事をこなされ、参加者のそれぞれ専門的な話題に関する発言を真摯に傾聴されておられた。

浦東の農家ご訪間の途次、黄哺江に架かる南捕大橋の中間地点で下車され、雲一つない秋空のもとに左側に拡がる上海の旧市街、右側の開発中の浦東地区を眺望されながら、黄菊上海市長の説明をお聞きになられた。 浦東に残る農村地帯では、たわわな稲穂の中の畦道を通って農家にお立ち寄りになり、女児のいる若い農民夫婦と親しくお話になられた。

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2013年8月4日 up date

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