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国際問題コラム「世界の鼓動」

携帯電話の教訓と宇宙開発―脱ガラパゴス化への道

公共事業を脱するために

日本の宇宙関連企業が宇宙専業メーカーではなく、総合電機メーカーや重工メーカーだったのも影響した。これら企業にとって宇宙開発は単なる一事業部門にすぎず、そこが膨大な赤字さえ出さないかぎり、他の部門の収益で企業は存続できる。リスキーな世界の宇宙ビジネスに打って出るだけの気迫が生まれようもなかった。

こうして、国の予算で一定の開発を続ける公共事業的な宇宙開発が定着していき、その中で技術者の探究心を満たすような極めて技術指向の強い体制が出来上がった。日本初の純国産大型ロケット「H2」は洗練された高性能ロケットで、そのメインエンジンLE7は“芸術品”とも呼ばれた。しかし打ち上げ費用がライバルロケットと比べて割高なため、日本政府が関与する衛星以外の顧客を得ることはできなかった。

だが、時代の変化は訪れる。北朝鮮のテポドン発射騒動(1998年)を契機に情報収集衛星を打ち上げるなど、日本はそれまでの潔癖なまでの非軍事から徐々に方向転換を図る。2008年には、攻撃的、侵略的でない防衛目的の宇宙開発に道を開く宇宙基本法を制定し、ようやく普通の国に近づいた。

高コスト体質の改善も進められ、H2ロケットの後継機となったH2Aロケットではかなりのコスト削減がはかられた。それでもまだ割高であることに変わりはなく、来年度から開発される次期大型ロケット「H3」(仮称)では、従来の半額の約50億円の打ち上げ価格を目指す。

歴史の皮肉

軍事転用の恐れありと米国から嫌われた固体ロケットはどのような道をたどったのか。糸川博士の流れを組む宇宙科学研究所(ISAS)が、ミューロケットシリーズとして完成度を高め、その集大成となったのが「M5ロケット」(2006年、最終機打ち上げ)である。M5は構造・性能的には弾道ミサイルそのもので、外国の専門家からは“世界最大のミサイル”とも言われた。

軍事・防衛の対極にある学術分野の宇宙開発であったため、世界の厳しい目を逃れて固体ロケットが生き延びられたともいえる。その結果生み出されたロケットが、軍事国家もうらやむ高性能ミサイルと同等の性能を持つにいったのは、歴史の皮肉かもしれない。

だがM5も、大型化が進みすぎて科学衛星の打ち上げには大きすぎる点や打ち上げ費用の高さが原因となって、2006年に開発・製造が終了する。その廉価版、小型版ともいえるのが、8月に初号機が打ち上げられる予定の「イプシロン」である。

H2Aロケットの固体ロケットブースターとM5の上段ロケットを流用して開発費を約200億円に抑え、1回の打ち上げ費用も約38億円とM5の半分程度まで低減させた。ロケットそのものに自己診断機能を持たせ、打ち上げシステムもできるだけ簡素化したため、わずか1週間程度の準備期間で発射できるのも強みでる。

ロケットに話を絞って駆け足で歴史をたどったが、他にも宇宙探査技術や衛星のランデブー・ドッキング技術、飛翔体を大気圏に再突入させる技術など、宇宙大国しか持ちえなかったほぼすべての要素技術を日本は手にしている。課題は宇宙ビジネスの分野でいかに存在感を発揮し、シェアを獲得するかにある。価格だけでなく実績が何よりモノをいう世界だけに、打ち上げ成功回数を着実に積み重ねていく必要がある。

日常品の携帯電話と巨大技術システムであるロケットを比べるのは無理があるかもしれないが、ユーザーの懐具合や要望を軽視した技術至上主義だけでは世界に通用しないということでは共通点がある。

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2013年8月2日 up date

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