NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

“商人国家”にとっての原子力

商人国家の実力

しかし、基盤技術を持っていることと、実際に作ることとは違う。法律、社会制度、国民感情などの制約を抜きにして、仮定の話として日本が核を作れるかといえば、話は簡単ではない。日本にある発電用の原子炉はすべて軽水炉(沸騰水型と加圧水型)であり、兵器用のプルトニウム製造には向いていない。他に日本原子力研究開発機構(旧・動燃)の高速増殖炉「もんじゅ」もあるが、事故、トラブルで長年停止したままである。

原子炉でウラン燃料(ウラン235)を燃やすと、燃料に含まれている非核分裂性のウラン238が中性子を吸収してプルトニウムに変わる。何種類もの同位元素があるプルトニウムのうち原子炉燃料や核兵器の原料になるのはプルトニウム239だが、軽水炉燃料を長い期間(通常3年程度)燃やして得たプルトニウムには、この239の他に不純物としてプルトニウム240がかなり含まれ、これがやっかいな問題を引き起こす。

核弾頭に加工しようにもプルトニウム240は自発的に中性子を出し続けるため、早期に未熟な核分裂連鎖反応を起こしかねない。他にも発熱量が高いという問題もある。冷却装置など様々な工夫をして無理に作っても、巨大化して実用的な核兵器にはならない。

こうした問題を避けるため、実際にプルトニウム型原爆を開発した国は、プルトニウム生産に向いた黒鉛炉など特殊な炉でウラン燃料をごく短期間(2~3か月程度)燃やし、余計なプルトニウム240が増える前に再処理作業でお望みのプルトニウム239を分離している。「もんじゅ」ならこうした問題もなく、高品位のプルトニウムを製造できるが、止まったままであるのは前述の通りである。

ウラン型の原爆には原子炉はいらないが、日本のウラン濃縮技術は成熟しておらず、商業運転を円滑に続けられないでいる。それに何より、濃縮にかけるべきウランの大半は電力会社が燃料の形で保有しており、自由に使えるウランなどなきに等しい。単に技術的観点からしても容易でないことがわかろうというものだ。

親分の仲間入りを目指すのか

それだけではない。親分を目指すとなると、発電用のウランの供給を諸外国から拒絶され、平和利用が壊滅的な打撃を受ける。核保有を望む他の国々を刺激して、核不拡散体制の破壊者という汚名をあびせられかねないであろう。

核弾頭開発の次には運搬手段の問題が出てくる。日本は世界有数の固体燃料ロケット技術を持っており、この点をクリアするのは容易であろう。しかし、さらに先には早期警戒システムの必要性や、狭い国土に見合った核ミサイル搭載原子力潜水艦への願望も出てきかねない。経済に陰りの見られる国が、はたして膨大な出費に耐えられるのか。

核搭載原潜に核抑止力を託しながら、そのあまりの負担に耐えきれず、核戦力の放棄まで視野に入れつつある英国の例もある。核保有の負担が通常兵力の整備・充実の足を引っ張るため、軍部OBのなかにさえ脱核兵器の意向があるという。

思考の訓練としてならともかく、半世紀以上も商人国家であり続けてきた日本が、今さら親分を目指す意味はあるのだろうか。多様な科学技術力を磨きながら、並みの商人国家とは一味違う、侮れない国を目指し続けることも、悪い選択肢ではないように思う。

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2013年5月7日 up date

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