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このシンポジュームは台湾の「新台湾和平基金」と米国の「プロジェクト2049基金会」が共催し、2014年12月6日、台北で開かれ、台湾、米国、日本、オーストラリア、インド、韓国からアジア問題の専門家が参加した。シンポジュームでは、池田理事長は「日本から見た台湾の重要性」を中心に、この地域の新情勢をめぐる、米中関係や中台関係などにも言及し、包括的な見解を述べたが、その発言の要旨は以下の通り。
「アジア太平洋地域における日本外交の基本的特徴として次の3点を挙げることが出来よう。
(1) 日米安保条約を基軸とする外交の推進
(2) 中・韓・ASEAN・豪・印など近隣諸国との関係強化
(3) 民主・自由・人権などの普遍的価値の重視
台湾の重要性については台湾は東シナ海と南シナ海に跨る戦略的な位置にある。また、中国の言う「第1列島線」に位置している。近年この海域では中国の海洋進出の動きが活発化し、緊張が高まっている。
歴史的、地理的に見て、日台間には深く長い繋がりがある。アンケートの結果によれば、日本人の84%が「台湾人は信頼できる」と答えた(ニールセン社調査 2011)。他方、台湾人の「最も好きな国」はここ数年来、一貫して日本である。台湾と日本の双方の観光客は、あわせて年間400万人を超えている。 2011年の東日本大震災の際、一国としては最も多い200億円強の義捐金が台湾から集められ、日本人を深く感動させた。
台湾は自由で民主主義の定着したところである。日台の両者は共通の価値によって結ばれていると言える。経済的に見て、台湾にとって日本は中国に次ぐ第2の貿易相手であり、日本にとって台湾は第5の貿易相手である。特に近年、日台投資協定や日台漁業協定が締結されたことは、両者間に外交関係が無いにもかかわらず、全体として関係が良好であることを示した。
なかでも、昨年3月に締結された日台漁業協定は、十数年間の交渉ののちに妥結したが、尖閣領有権と切り離した形で、漁業水域を確定し、日台間の大きな懸案を円満に解決することに成功した。
今後、台湾の経済にとって重要なのは、台湾がTPP(環太平洋経済連携協定)に加盟すること、また日台間においてはFTA(自由貿易協定)が締結されることである。TPPについては、日本政府はすでに台湾のTPP加盟を歓迎する旨表明している。FTAについては、事実上関税、投資等の面で両者の関係は強化されてきたので、これらの蓄積の上にFTA協定が締結されることが期待される。
中台関係の現状に関しては「不統、不独、不武」の現状維持策を取る馬英九政権下の6年間で、中台間の経済・人的交流はECFA締結などを通じ進展し、台湾海峡における緊張はあきらかに緩和した。他方、それと同時に台湾経済の中国依存度は大幅に高まった。(現在、台湾の輸出の42%、対外投資の6-7割は中国向け)
台湾にとっては、中国との間で今後、如何なる関係、距離を保つかは、党派を問わず、極めて重要な課題である。この間、中国のミサイル増強や南シナ海での一方的活動、空母の試験的就航などに見られるように、台湾周辺における中台間の軍事バランスはますます中国側に有利な方向に進展しつつある。中国の国防費は公表されているだけで、過去20数年間にわたり毎年二けた台で増強されてきた。
中国にとって、台湾を統一すること、あるいは少なくとも台湾独立を阻止することは「核心的利益」であり、台湾独立への動きに対しては「反国家分裂法」を適用し、武力行使するとの立場は変わっていない。中国は台湾に対しても、香港に対するのと同様に将来「一国二制度」を適用しようとしているが、中国の統治下にない台湾は香港とは全く事情を異にする。台湾にも「一国二制度」を適用しようとする考え方は、中国が如何に台湾の事情を理解していないかを示している。
台湾の地位に関する日・米の立場にも言及しておきたい。「日中共同声明」(1972年9月29日)は「台湾は中華人民共和国の領土の一部」という中国の主張に対し、日本はこれを「十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」と表明した。この表現は、中国の主張にかなり歩み寄ったものであるが、中国の主張を法的に承認したもの(たとえばrecognition のような)とはなっていない。
他方、米国の場合は「米中共同コミュニケ」(1978年12月16日)の中で、「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部である」との中国の主張を「acknowledge」する、と述べている。この表現も中国の主張を法的に承認した表現とはなっていない。
両岸関係については、米国も日本も台湾海峡を挟む現状が一方的に変更されることに反対し、平和裏に解決されることを期待してきた。
日本の集団的自衛権行使と日米同盟の関係では最近、日本政府は国連憲章で認められている集団的自衛権の行使を、限定的であるとはいえ、認めることとなった。今後、日米の防衛協力が進展することとなれば、東シナ海や台湾近海の有事の際の対中国抑止力の向上につながることとなろう。日本は平時においては「台湾関係法」をもつ米国とことなり、台湾の安全保障の問題に直接かかわることはない。しかし、いったん武力衝突発生の際には、周辺地域における新たな国際紛争への対処として日米同盟に基づき、米軍の活動を側面的に支援することとなろう。
日米安保条約はもともと日本防衛と同時に、条約上(第5条、第6条)は、「極東」と呼ばれる日本を含む東アジアの平和と安全を確保する地域的安全保障システムの中核とも言うべき性格をあわせもっている。米国が日本の基地を使用できるのは、日本の安全のみならず、「極東」の平和と安定に寄与するためである。
日中間の海上衝突回避の危機管理メカニズムについては11月のAPECの首脳会談に先立ち、日中間で「日中関係改善に関する文書」が交わされた。その中の第3項は「双方は、尖閣諸島などの東シナ海の海域において近年、緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、・・・・・危機管理のメカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。」と記述している。
今後、いかなるペースでどのような危機管理のメカニズムが生み出されるか注目される。
なお、尖閣諸島に関係して、本年5月、オバマ大統領訪日の際、大統領自ら「尖閣は日米安保条約第5条の適用対象である」ことを明言し、さらにそのことが共同声明に明記されたことは、中国に対する明確なメッセージとなった。
日本はかねて中国に対し「戦略的互恵関係」の立場を表明している。日中双方がともに利益を得ることが出来るギブ・アンド・テイクによる是々非々の互恵関係(これを日中双方は「戦略的互恵関係」と名付けてきた)が発展すること自体は歓迎さるべきである。日本の期待する中国の姿は、国際協調路線をとり建設的役割をはたす責任ある大国の姿である。ところが最近の傾向を見る限り、中国は東シナ海、南シナ海などにみられるように、国際ルールを無視し、勢力拡張への覇権主義の道を歩みつつある。
これに関連して中国は最近、米国に対し「新しい形の大国関係」という表現を使うようになっている。APECの会合の際に行われた米中首脳会談においても、習近平主席は米中両国関係を「新しい大国関係」と、唱えたが、これに対し、オバマ大統領が如何なる応答をしたか、明瞭ではない。
この用語を使うに当たって注意すべき点は、もともと中国にはハワイを起点にして太平洋を二分し、東を米国、西を中国が管理するという構想があることだ。また、「新しい大国関係」なるものを認めれば、中国のいう「核心的利益」(台湾はその一つ)なるものも同様に認めることが含意されているように思われる。したがって、このような曖昧な用語は使用しない方がよい。
台湾の「太陽花学生運動」と香港の「雨傘革命」が、台湾や香港にどのような影響を及ぼしたのか、またそれは中国との関係で今後いかなる意味を持つこととなるのか、今後注視する必要がある」