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文責・清本 修身(事務局)
今日の世界はグローバリズムとナショナリズムがせめぎあう時代といってもよいのだろう。この新時代の政治風景はアジア地域でとりわけ色濃くうかがえる。
私たち「アジア情報フォーラム」は台湾のシンクタンク「中華経済研究院」の招待を受け、池田維理事長ら役員が昨年末、訪台し、大学教授や実業家など台湾社会の指導的立場にある民間人と日台米関係、日中、台中関係などを中心に意見交換をした。総括的に言えば、加速するグローバリズムの流れの中で、数々のナショナリズム的な課題が噴出し、そのはざまでどうのようにそれぞれの個別、地域的な利益を確保していくかを模索するような意見が多く表明された。同時に、近年の中国の一方的な海洋覇権を目指す動きに強い警戒感が指摘され、台湾の地政学的な価値を多くの国で共有すべきとの立場から、日台間の親密さと信頼関係の一層の発展が極めて重要であるという共通認識が再確認された。
この対話会合は、「台・日・中関係に米国の動向も踏まえた広い視野で、自由な意見交換をする」という趣旨で行われ、日本側を代表して、まず池田理事長が「日本経済は安倍政権のいわゆるアベノミクスで、長年のデフレから脱出できる状況が生まれつつある。日米関係も懸案の普天間基地移設問題がようやく解決の方向が見えてきた。しかし日本は中国・習近平政権の単独主義的な動きが、北東アジア地域の安全保障環境に与える影響を深く懸念している。中国が設定した防空識別圏では日米は共通の立場である。日本は中国との戦略的互恵関係を築くことを常に重要と考えていることに変わりはない」と述べた。
次いで古庄幸二理事が尖閣諸島問題を念頭に東シナ海のシーレイン問題に言及し、「南シナ海から東シナ海に続くシーレインは地域の経済活動の生命線であり、国際的な公共財として日本を含め地域全体でその安全航行を確保をすることは至上課題である」と強調した。石川弘修副理事長は米国のオバマ政権の最近の状況について概観し、「一期目の同政権はリバランス政策を看板に、アジア関与の度合いを強めて、アジア太平洋地域の安定にとって好ましいことであると歓迎されたが、二期目の同政権は財政問題やオバマ・ケアー問題などの内政課題に引きずられ、外交力に陰りがみられ、政権の弱体化を憂慮されている」と指摘した。
また、山崎邦生理事は自身の二度、約10年にわたる中国勤務経験について「2000年代初期の駐在時代はしばしば激しい反日運動に見舞われたが、それでも多くの一般中国国民はおおむね親切だった」と語り、反日運動は国民全般の抗議活動というより、政権の政治的な思惑によるものとの印象を持った という感想を述べた。さらに中国が強く非難する靖国参拝問題に関しては「首相がだれであれ、日本人が自分の国内の宗教文化施設に赴くことで、外国から咎められることは全く理解できない。両国で歴史認識に差異はあっても、あまりの政治利用は納得できない」と中国の立場に疑問を呈した。
一方、台湾側の出席者は彭栄次・元亜東関係協会会長が口火を切り、台湾の現状について「いまは経済問題に専念している時期だ。中国との経済関係は深まっているが、中国に取り込まれないように警戒心も高まっている。馬英九現政権が政治をどういう方向にもっていこうとしているのかその“本心”はなかなか分かりづらいが、最近、自身の最側近を米国に送り込んだことには注目している」と述べた。
続いて陳添枝・台湾大学教授は「台湾経済はこの二年、成長率が2%割れとなり、極めて厳しい状況にあり、高度成長時代は終わりつつあると感じている。対中国貿易は全体の42%と高い水準にあるが、中国経済の減速傾向もうかがえる。台湾はさらに経済関係の多角化を図ろうとしており、日本とは一層の連携が必要だと思う」との見解を示した。ビジネスの実務体験からの感想を語ったのは董烱熙・能率集団会長で、「世界でベンチャーキャピタルが最も育っているのは台湾とイスラエルだ。日本はもっと規制改革を進め、ベンチャー企業の育成を図るべきだ」と要望し、安倍首相の積極的な東南アジア訪問に強い関心を示しつつも、「どれだけ具体的な成果があったのかやや疑問を感じてる」と述べ、台湾としては日本・東南アジア諸国と一緒に強い経済連携を構築していきたい考えを表明した。
このように台湾側出席者はいずれも日本経済の復活に期待を寄せ、中国の台頭を意識ししながら、いすれ“鯨吞”される可能性への不安感を微妙に滲ませたが、日本側の発言もその俯瞰はほぼ同一で、日台関係のさらなる発展が既存秩序の維持と地域安定の重要なカギになるという共通の分析が多くの分野でうかがわれた。