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尖閣問題の理事長論文への反響

文責 清本修身(事務局)

われわれのNPO組織「アジア情報フォーラム」(AIF)の情報発信欄「世界の鼓動」に、掲載された池田維理事長の尖閣領有権についての論考に対し目下、多くの反響がよせられている。

「この論文は日本のこれまでの立場を系統的に、きわめてわかりやすく書いてある」というのが多数の意見だ。なかには、中国の公船が頻繁に日本の領海に入っているのを見て、あるいは中国の主張にも一理あるのかなどと思っていたが、「この論文を読んで心が晴れた。中国に対しても、国際社会に対しても広く積極的にPRしてほしい」との声もある。

さらに、外務省がこの論文を英訳し、ひろく対外広報活動に活用しようという動きもあるようだ。中国のみならず、日本国内でもやや錯綜気味の尖閣領有権に関し、日本政府の立場をより明確に論証するために、この論文が極めて有効であると判断されたのであろう。

10月5日付の読売新聞朝刊の「論点」においてもこの論文の要旨が掲載された。

理事長論文(HPの6月29日付け日本・アジア欄に掲載)の主題は、時折浮上する尖閣領有権の棚上げ案が日中両政府の交渉過程であったのかどうかについての考証である。長年にわたり日中関係の実務に携わってきた元外交官としてこの棚上げ案は「会話上の一方的な表現」としてはあったものの、外交文書や両政府の実際の交渉過程に照らして、正式な「合意」はどこにもないことを、優れて正確に指摘している。加えて、もし中国がそれを主張するのならば、1992年に同政府が国内法として施行した東シナ海、南シナ海までも対象にしたいわゆる「領海法」と重大な論理矛盾が存在することにも鋭く言及している。

中国はいま世界第二の経済大国になったことを飛躍台に「海洋強国」への道を着々と進んでいる。増大する軍事力を背景に周辺国に“威嚇的”な行動を見せつけている。尖閣周辺でも度重なる領海侵犯を含めた監視活動をし、その動きには、「外交とは軍事力」といういわば古典的信仰さえ、うかがえる。一方で、数々の深刻な内政課題を抱え、共産党一党独裁の構造的な問題も色濃く表面化しつつある。日米などが中国に対し、「責任ある大国」としての振る舞いを強く求めているのは、こうしたことが背景にあるのだが、理事長論文は淡々とこの点にも触れている。

もとより、外務省には多くの中国問題専門家がいるし、豊富な外交記録もある。それでも、退官した先輩外交官の論考が重要な参考資料として活用されるのは、どの組織にもある世代交代に伴い、正確かつ十分な日中交渉の経緯を知る専門家が少なくなったということかも知れない。そして私が個人的に思うのは、中国側だってその事情は変わらないのではないかということだ。そうした意味では理事長論文は強硬な中国の主張への反論であるとともに、相手の新世代政権への説得力ある忠告にもなりうるものだと考えている。

どうも勢いづく中国は理不尽な大国意識をふりまく習癖を身に着けてしまったように思える。しかし、「中進国の罠」という政治経済的な考え方がある。経済的に途上国から中進国へ発展してきた際、安価な労働政策が維持できなくなり、低賃金の国々からの追い上げを受けることに加え、政治不満など多様な要因で経済活動が停滞してしまう「罠」が存在するということを意味するこの考え方は、今日の中国がまさに直面しつつある現象と符合しているのではという見方もできる。

中国は大国であり、世界第二の経済規模を誇ることは事実ではあるにしても、その巨大な人口から国民経済全体では「中進国」への仲間入りを果たそうという段階である。そんな中での、覇権的な振る舞いは道を誤る可能性が大きい。何より、国家の共存関係がまずます緊密化しているこのグローバル化時代に、そうした行動は国際社会の共感を決して得られないだろう。政権はいまこそ内政課題にもっと真剣に向き合わなければ、やがて国民の支持も失ってしまうだろうと危惧せざるを得ない。内政問題は多々あるが、とりわけ腐敗の蔓延、拡大する経済格差に対する国民の不満はますます高まっている。薄熙来裁判との関連でも、平等主義を求め、毛沢東路線への回帰志向が国民の間に表面化し、政権を揺るがせつつあると指摘する声も多い。この10数年来続く「反日」運動を煽ることだけで共産党への求心力を維持し続けることなど出来るだろうか。

尖閣問題にはこうした複雑な“危険因子”が潜在していることを忘れてはならないと切に思う。

2013年10月5日 up date

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