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国際問題コラム「世界の鼓動」

ウィルスとメディア:怖れを怖れる

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

virus3英国の大学でさまざまな研究を行っている学者たちが意見交換を行っている場としてTHE CONVERSATIONというサイトがあります。ウェールズのカーディフ大学でジャーナリズムを研究するカリン・ウォル=ヨーゲンセン(Karin Wahl-Jorgensen)が2月14日付のTHE CONVERSATIONに、コロナウィルスについてのメディア報道が「恐怖とパニックを掻き立てている」(Coronavirus: how media coverage of epidemics often stokes fear and panic)とするエッセイを寄稿しています。

 

Karin Wahl-Jorgensenウォル=ヨーゲンセン教授が1月12日から2月13日までの1か月間に世界中で発行された英語の新聞100紙を調べたところ、このコロナウィルスについての記事が9,387本出ていたのですが、そのうち1,066本の記事の中で”fear”とか”afraid”のような「恐怖」もしくはそれに類するような言葉が使われていた。中にはさらに怖ろし気な「殺人ウィルス」(killer virus)のような言葉を使った例が50件以上あったのだそうです。

viirus2大体において大衆紙ほど「死に至る病」(deadly disease)のような恐ろし気な言葉を使うし、読者の身近なところでの「殺人ウィルス」の恐怖を表現するためにブライトンのパブでは手洗いのための消毒液が用意されたことなどが報道されている。アメリカのTIME誌の調査によると、コロナウィルスの発生後一か月目における英語メディアの記事数は2018年のエボラ出血熱に関する記事の23倍もにものぼっている。

ウォル=ヨーゲンセン教授はジャーナリズムにおける感情の役割(role of emotions in journalism)に注目しているのですが、メディア報道というものが国民的な会話や恐怖心を含めた感情を支配する傾向にあると言っている。恐怖(fear)は個人的な体験であることが多いけれど、多くの人間と共有されることで「社会的感情」になってしまうこともあり、他の諸々の感情と同様に恐怖もまたあっという間に広がってしまう性格を持っている。

上の写真、ウクライナにある人口1万人という小さな町に、コロナウィルスで有名になってしまった中国・武漢からの帰還者を載せたバスが到着した際、これに反対する住民がバスに向かって投石するなどの意思表示を行った場面です。乗客はウクライナ人が45人、外国籍が27人で、6台のバスに分乗して空港からこの町へやって来た。ここで検査のために2週間、病院で過ごすことになっている。これらの人びとのウクライナ入りについて、ゼレンスキー大統領がコメントを発表、「ウィルス感染とは別の危険について述べておきたい。それは私たちが皆人間であり、ウクライナ人であることを忘れてしまうことの危険だ。武漢の人びとも我々も、皆人間であるということだ」と強調しています。

上の写真、ウクライナにある人口1万人という小さな町に、コロナウィルスで有名になってしまった中国・武漢からの帰還者を載せたバスが到着した際、これに反対する住民がバスに向かって投石するなどの意思表示を行った場面です。乗客はウクライナ人が45人、外国籍が27人で、6台のバスに分乗して空港からこの町へやって来た。ここで検査のために2週間、病院で過ごすことになっている。これらの人びとのウクライナ入りについて、ゼレンスキー大統領がコメントを発表、「ウィルス感染とは別の危険について述べておきたい。それは私たちが皆人間であり、ウクライナ人であることを忘れてしまうことの危険だ。武漢の人びとも我々も、皆人間であるということだ」と強調しています。

さらに現代においてはメディア報道が国民的な議論における「議題設定」(agenda setting)の役割を担ってしまっているという部分もある。メディアは人びとの「考え方そのもの」(what you think)を支配することはないにしても、「何について考えるべきか」(what you think about)という意味で人びとの思考を縛ってしまうという側面はある。メディアが盛んに報道すること=重要な話題という風に考えられがちであるということです。

コロナウィルスに関する記事の中には少数とはいえ冷静さを呼び掛けるものもある。例えばシンガポール首相である、リー・シェンロンの次のコメントは世界中のメディアで報道されている。 Fear can make us panic, or do things which make matters worse, like circulating rumours online, hoarding face masks or food, or blaming particular groups for the outbreak.  恐怖がパニックを呼び事態を余計に悪くする。噂がインターネットを通じて拡散し、マスクや食料の買い占めを起こさせ、人種差別的な言動まで呼び起こす。

コロナウィルスに関する記事の中には少数とはいえ冷静さを呼び掛けるものもある。例えばシンガポール首相である、リー・シェンロンの次のコメントは世界中のメディアで報道されている。
Fear can make us panic, or do things which make matters worse, like circulating rumours online, hoarding face masks or food, or blaming particular groups for the outbreak. 
恐怖がパニックを呼び事態を余計に悪くする。噂がインターネットを通じて拡散し、マスクや食料の買い占めを起こさせ、人種差別的な言動まで呼び起こす。

コロナウィルスに関する報道の多くが「恐怖」を切り口にしているけれど、そのことが示すのは、記事そのものが大衆が抱える恐怖心について報道するもので、肝心の話題であるはずのウィルスが実際にどのように拡散しているのかという事実に関する報道が二の次にされてしまうという傾向がある。教授によると、コロナウィルス報道と極端に異なるのがインフルエンザ報道で、毎年世界中で30万~65万ともいわれる死者を出しているにもかかわらず、2020年1月12日以後、世界中の英語の新聞が掲載したインフルエンザの記事はわずか488本、そのうち「恐怖」のような言葉が使われたのは37本だけ。コロナウィルスに関する記事の約1000本とは大違いというわけです。

1933年、アメリカのルーズベルト大統領が就任演説の中で言った「我々が恐れなければならないものはただ一つ、恐れそのものだ」(the only thing we have to fear is fear itself)という言葉は有名です。これは当時アメリカを襲った大恐慌に際して国民的な団結と冷静さを呼びかける中で使われたものですが、ウォル=ヨーゲンセン教授は

Yet at a time rife with misinformation, fake news and conspiracy theories, it is worthwhile remaining alert to the dangers of this contagious emotion in the face of uncertainty.

誤った情報、フェイクニュース、さらには陰謀論のようなものが世界中を闊歩している現代では、不確定なものに直面して伝染性感情がもたらす危険について、我々は十分に警戒心を保つ必要がある。

と訴えています。

ウォル=ヨーゲンセン教授によるこの記事とは別の話ですが、2月27日付のThe Independentのサイトが「政府の極秘文書」の情報として「このウィルスによって50万の英国人が死亡し、4800万(人口の8割)が感染する可能性がある」(Coronavirus could kill half a million Britons and infect 80% of UK population)と伝えています。

2020年3月1日 up date

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