NPO法人 アジア情報フォーラム

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国際問題コラム「世界の鼓動」

楽観主義と悲観主義

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

dogoptimistむささびが好んでクリックするサイトに “Our World in Data” というのがあります。世の中のさまざまな現象をデータ化して語ろうとするもので、スローガンとして

世界の問題に調査とデータで挑戦する

research and data to make progress against the world’s largest problems.

と書いてある。主宰はオックスフォード大学で経済を研究するマックス・ローザー(Max Roser)という人なのですが、この人は1983年生まれというからまだ36才です。サイトに収容されているデータのテーマは今年の9月現在で300件、グラフは3000件に上っている。

optimism2そのサイトに “Optimism & Pessimism” というセクションがあります。人間が感じる楽観主義や悲観主義はどこから来るのか、どこまで正当なものなのかを数字で語ってみようというわけです。過去何千年、何百年という歴史を通じて人間の生活はどう見ても向上してきていますよね。かつてに比べれば病気、戦争、飢餓などで死ぬ人の数は減ってきているし、昔に比べれば教育の機会も向上している、民主主義も拡大したり…というわけでかつてに比べれば人類の生活は「健全」(healthier)になっている。なのに…

なぜ人間(特に先進国の)はこれまでの世界の変化を否定的に見ようとするのか?なぜ我々は人間全体の未来についてかくも悲観的な見方をしてしまうのだろう?

So why is that we – mostly in the developed world – often have a negative view on how the world has changed over the last decades and centuries? Why we are so pessimistic about our collective future?

というわけです。

 

個人的には楽観、社会的には悲観

optimism1ユニバシティ・カレッジ(ロンドン)のタリ・シャロット(Tali Sharot)という心理学者によると、人間には自分個人の生活については楽観主義が刷り込まれている(built into)のだそうです。例えば新婚のカップルに「将来離婚することはあり得るか?」と質問すれば「離婚なんてするわけない」という答えが返ってくる。なのに現実には英国における結婚の40%が離婚に終わるという数字が出ている。タバコを吸う人間に癌に罹る可能性の話をしても、自分だけは例外という態度をとる。権威ある医者が作成した統計を見せても同じ。

EUが主宰する世論調査にユーロバロメータ(Eurobarometer)というのがある。1995年から現在までの自分の仕事状況(job situation:職場が確保されているかどうか)について調査したところ約60%が「将来も変わらないだろう」と答え、20%が「事態が良くなっているだろう」と答えている。つまり80%が「楽観的」な見通しを持っており、職を失うなどと考えていない。

一方、それぞれの人びとが属している国の経済状態について尋ねると、殆どの人が「悪くなる」か「変わらない」という答えをしている。こちらの悲観主義については、実際の国の経済状況を反映している部分もあるけれど、共通しているのは、国レベルの状態が「悪い」ものであっても、個人レベルでは「良い」とするケースが圧倒的に多いということです。

先進国の衰退論

悲観論・楽観論と似たような現象としていわゆる「先進国」の人間に共通しているかに見える現象として “declinism”(衰退論) というのがある。自分たちの国が衰退の道を辿っているという感覚です。トランプの「アメリカを再び偉大な国にしよう」(Make America Great Again!)というスローガンは、アメリカがかつてに比べると落ち目であることを認めているわけですね。この現象に関しては英国も負けていない。かつての大英帝国の栄華を顧みながら「昔はよかった」とため息をつく。歴史家のデイビッド・エジャトン(David Edgerton)によると

衰退論によると、もし英国がうまくやっていたら、世界の舞台で今よりもはるかに大きな地位を占めていただろうということになる。

Declinism holds, implicitly but clearly, that if Britain had done better it would have remained a much larger player on the world stage.

ということになる。

子どもたちの時代には自分の国の経済状態が・・・

子どもたちの時代には自分の国の経済状態が・・・

ただ「衰退論」を唱える人間の問題点は、自分の国の「衰退」が地球規模の変化の一環であることを見逃して、英国自身が別の道を歩めば「衰退」することがなかったかのような考え方をすることである、と。さらにこの考え方の誤りは、いわゆる「衰退」が絶対的なものというより相対的なものに過ぎないことを見逃しがちであるということにある。特に経済における衰退論には誤解が多いのだそうです。例えばEU加盟国の中でも新しい加盟国の人間は将来に対して楽観的なのに、独・仏・英・伊などの経済的な主要国では悲観論が幅を利かせているという具合です。

最後にアメリカのPew Researchが27か国の成人を対象に、自分の世代と将来世代を比較して将来世代の方が経済的に良くなっていると思うかを聞いてみたところ、いわゆる先進国では悲観論が圧倒的だったそうです(上のグラフ参照)。

2019年11月1日 up date

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