NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

高齢ドライバー:英国の場合

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

mj426-olddrivertop「高齢者が運転する車による悲惨な交通事故が相次いでいます・・・」という類の放送を頻繁に耳にします。例えば6月5日付のNHK NEWS WEBというサイトに掲載されている「免許返納 決断の時期は?」という見出しの記事は「~が相次いでいます」というお決まりのイントロに続いて

75歳以上のドライバーが起こした交通死亡事故は去年、全国で460件。警察庁は高齢者に運転免許証の積極的な自主返納を呼びかけていますが・・・

と書いてある。

この問題について英国の事情はどうなっているのか?と思ってネットを当たってみたら、今年1月18日付のBBCのサイトに「ドライバーの年齢は事故に関係しているか?」(Is age a factor behind the wheel?)という見出しの記事が出ていました。実はその前日にエリザベス女王の夫であるエディンバラ公の運転する車が国道でほかの車と衝突事故を起こして大いにメディアを賑わせていた。エディンバラ公の年齢が97才(!)であったところから、高齢ドライバーと事故の相関関係という記事となったわけです。

英国の年齢別免許保持者 英国における運転免許保持者の年齢別内訳(2016年)は上のとおりです。「100才以上」が300人いるというのもすごいけれど、90代が11万人いるというのも驚きですよね。70才以上となると500万人を超えている。

英国の年齢別免許保持者
英国における運転免許保持者の年齢別内訳(2016年)は上のとおりです。「100才以上」が300人いるというのもすごいけれど、90代が11万人いるというのも驚きですよね。70才以上となると500万人を超えている。

 

英国における運転免許保持者の年齢別内訳(2016年)は上のとおりです。「100才以上」が300人いるというのもすごいけれど、90代が11万人いるというのも驚きですよね。70才以上となると500万人を超えている。

エディンバラ公のような事故が起こると、高齢者の運転は規制すべきだという声が上がるのはいずこも同じだけれど、英国版のJAFのような組織であるAA(Automobile Association)のキング会長によると「若いドライバー(特に免許取りたてのような)の方がはるかにリスクが大きい」とのことで、

年寄りドライバーは自己規制の傾向が強く、夜間の運転は避けるし、慣れた道だけを運転するという傾向が強い。Older drivers often self-restrict their driving by not driving at night and only driving on familiar roads.

とコメントしている。

事故を起こして転倒したエディンバラ公が運転していた車

事故を起こして転倒したエディンバラ公が運転していた車

また英国の運転免許庁(Driver and Vehicle Licensing Agency:DVLA)の統計によると、昨年1年間で事故を起こした70才以上のドライバーは11,245人で、この年代の免許保持者1000人つき2人なのに17~24才となると1000人につき9人と70才代に比べると4倍以上である、と。しかも70才以上のドライバーが1年間で運転する距離は20才以下の運転者に比べると平均で1000マイル(約1600 km)多い。

英国の場合、70才になるといったん免許が失効する。更新するためには、健康面で問題がないことを自己申告する書類を提出することが義務付けられるけれど、運転試験の類はない。それ以後は3年に一度更新する必要がある。

 

英国:死傷事故に関わった運転手の年齢 UK Department for Transport

英国:死傷事故に関わった運転手の年齢
UK Department for Transport

 

また「高齢ドライバーが他の運転者より危険ということはない」(Older drivers ‘no more dangerous’ than other motorists)と言っているのがスォンジー大学(ウェールズ)のチャールズ・マスルホワイト(Charles Musselwhite)教授です(2016年9月6日付ファイナンシャル・タイムズ)。教授によると「高齢ドライバーの運転を止めさせることで起こるのは高齢者の健康低下とうつ病の増加であり、その割には交通事故は減らない(without making the roads any safer)という状況なのだそうです。

2016年に訪英したアメリカのオバマ大統領夫妻とエリザベス女王を乗せた車を運転するエディンバラ公

2016年に訪英したアメリカのオバマ大統領夫妻とエリザベス女王を乗せた車を運転するエディンバラ公

高齢ドライバーの危険性について、しばしば使われる統計に、75才のドライバーによる100万人あたりの交通事故死亡数は45才のそれの2倍であり、重症は1.5倍という統計です。が、マスルホワイト教授によると、それは高齢者の運転が乱暴だからではなく、体力的に弱いことが理由なのだそうです。

英国で高齢者による衝突事故が最も多いのは、彼らが右折する際に対向車と衝突するというケースなのですね。警察に言わせると、高齢者には対向車が良く見えないとか、対向車の速度が正確につかめないからとなる。が、教授に言わせると、老人にその種の事故が多いのは、周囲からのプレッシャーを感じやすいからということになる。「早く行け」と言わんばかりに、後ろからバッシングをされることもあるし、高齢運転者が自分でそのように感じてしまうということもある。いずれにしても、まともに考える時間さえ与えられればそのようなミスはしないというわけです。

Aマスルホワイト教授が憂慮するのは、年齢を根拠に強制的に免許を取り上げることが老人に与える精神面も含めた健康被害です。運転が許されなくなったことからくるストレス、孤独、鬱などです。また無理やり免許を取り上げられた老人が道を歩いていて車にはねられるというリスクが非常に高いともいわれている。

2019年6月25日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ