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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
The Economist誌の”Britain”のセクションに”Bagehot”(バジョット)という名前のコラムがあります。英国で起こっていることに対する解説と評論なのですが、その多くが政治の世界に関する記事で占められている。2019年1月17日付の同欄のタイトルは”The great rescrambling of Britain’s parties”というものだった。メイさんがEUと合意した離脱案が「歴史的大差」で否決されてから2日後に掲載されたものです。「英国政治において政党の離合集散現象が起こっている」というわけですが、
The country may be headed for a repeat of the 1850s
英国は1850年代の繰り返しに向かって進んでいるのかもしれない
とも言っている。
19世紀半ばに穀物法の廃止をめぐって政党間の対立が続いた時期があったのですが、現在の状況も同じようなものである、と。あの時は混乱の中から自由貿易を推進しようという政治勢力が力をつけるという現象があった。21世紀の現代における「混乱」はBREXITをめぐる政治状況のことを言っているのですが、政府が権威を失う一方で政党は内部分裂して、異なる政党の派閥同士が「同盟」を組んだり・・・という具合で、ここ何十年もの間言われてきた二大政党制の崩壊が現実のものとなっている。
メイ首相がEUとの交渉の結果として議会に提案した離脱に関する合意案が下院において歴史的な票差で否決されたのですが、あの際、保守党議員は3対1でメイ提案に反対票を投じた。英国政治における保守勢力の解体(disintegration)です。で、直ちにメイ政権に対する不信任案を提出した労働党だったけれど、これも否決された。労働党はいわゆる「合意なき離脱」(BREXIT with no deal)に反対という点では党内が一致している。しかし国民投票のやり直しについてはコービン党首が反対している一方で労働党議員の間では賛成意見が多い。つまりこちらもまた解体一歩手前という状態であるわけです。
英国政治における対立が昔のように「労働党 vs 保守党」の左右対立ではなくなって、EUをめぐる「離脱 vs 残留」という対立になっている観がある。実はEUをめぐる下院議員の間の対立には4グループあって話が実にややこしくなっている。
このうち1)の「ハード離脱派」は、哲学的には徹底的な「小さな政府」主義者で、英国を税金も規制も少ないシンガポールのような国(Singapore-on-Thames)にすることを目指しているのだそうです。
「EUとの関係」ということだけから見ると、このような分裂状態であるわけですが、保守党についていうと強硬離脱派の中には新党結成もやむなしという声もあるけれど、「コービンを首相にしてはならない」という点では意見が一致しているのだそうです。むしろ労働党の方が「残留」指向の中道右派が新しい中間政党を作るために党を割ることも考えられる。つまりこの先何がどうなるのか、さっぱり分からないのですが、The Economistのコラムニストによると
この混乱の中で一つだけはっきりしていることがある。それは、英国政治がBREXITの狂騒劇を生き延びたあとはいつものとおりに戻ると考えることが月に向かって遠吠えするようなものだ。
One thing is clear in all the confusion: anyone who thinks that Britain can go through the madness of the Brexit drama and then revert to politics as normal is howling at the Moon.
とのことであります。つまり当分は「いつものとおり」に戻るなんてことはあり得ないということであります。