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国際問題コラム「世界の鼓動」

北欧モデルがおかしい?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

mj410-sweden-top北欧がおかしい・・・というニュアンスの記事が10月15日付のSocial Europeというサイトに出ています。題して “What Is Wrong With The Nordic Model?”、書いたのはLondon School of Economics (LSE) のマイケル・コタキス(Michael Cottakis)という政治学者です。これまで北欧(Nordic countries) と言えば、優れた社会福祉、安定した社会、納得している市民などのイメージが強く、北欧以外のヨーロッパ諸国では何かというと「北欧を見習え」という声が強かった。日本も同じですよね。

ストックホルムの反移民デモ

ストックホルムの反移民デモ

それが最近になって事情が変わってきている。例えば9月に行われたスウェーデンの選挙では反移民を叫ぶスウェーデン民主党(Sweden Democrats)が躍進し、フィンランドやデンマークでも極右勢力が人気を得ている。とてもこれまでのような寛容な社会ではなくなりつつあるように見える。What Is Wrong With The Nordic Model? (どうしたんだ、北欧モデル)と問いたくもなる。

スウェーデン、デンマーク、フィンランドにおける右派政党の台頭というと、これまでなら「EUに対する不満の高まり」(dissatisfaction with the EU)ということで説明されてきた。EUによる経済活動の規制、EUの加盟国であるが故の移民の流入・・・英国におけるBREXITのような反感が右派・ナショナリスト勢力の台頭に繋がっているのだというわけです。

北欧諸国の議会における極右政党

北欧諸国の議会における極右政党

しかしマイケル・コタキスによればEUが根本原因ではない。ノルウェーの場合、ノルウェー進歩党(Norwegian Progress Party)という政党が右派ポピュリスト政党(right-wing populist party)とされる。この党は単なる政党ではなくて政府与党になっている。それだけ見るとノルウェーが最も右寄りであると言えるけれど、この国はEUには加盟していないのだから、「反EU」という国民感情は起こりようがない。そもそもEUによる規制のお陰で北欧企業が不利な目にあっているという証拠はどこにもない。どころかIKEA、H&M、Maerskのような北欧企業は、EUの単一市場に加盟しているが故に過去20年間で大きく成長したとも言える。

「原因は移民にある」というのがマイケル・コタキスの主張です。これまで北欧といえば、移民に対しても人道主義に基づく寛容でオープンな姿勢を貫いており、それが故に北欧は「人道主義超大国」(humanitarian superpower)とであることを自他ともに認めてきたはずなのですが・・・。

mj410-swedenimmigrants例えばスウェーデン移民局の推定によると、スウェーデンにおける「外国人」はスウェーデン人に比べて職を見つけるのが非常に難しい。スウェーデン全体の雇用率は78%なのに、ローゼンガードという移民が多く住むエリアの雇用率は27%にすぎない。スウェーデン社会で外国人が隔離(segregation)されている状況を表しているということです。

スウェーデンの年度別難民受入数

スウェーデンの年度別難民受入数

これにはスウェーデンの産業構造がサービス産業やハイテク産業が中心になっているということが理由として挙げられている。つまり高学歴であることが要求される職場が多いということです。外国からやって来た移民たちが職を得るのは大体において小さな会社であることが多い。大企業に比べると労働時間が長い割には給料が安かったりして、子供をまともな大学へ進ませるような余裕がないのが普通である、と。となると、欲求不満に陥った移民の若者たちが犯罪に走り、それがスウェーデン人の反感を呼び、右翼勢力の台頭を促すことに繋がる。

スウェーデンにおける右派政党の得票率 スウェーデンの右派政党であるスェーデン民主党の過去約10年間における選挙の得票率です。2006年の時点では約3%に過ぎなかったものが、移民の受け入れが盛んになった2013年ごろから急速に得票率が伸びている。

スウェーデンにおける右派政党の得票率
スウェーデンの右派政党であるスェーデン民主党の過去約10年間における選挙の得票率です。2006年の時点では約3%に過ぎなかったものが、移民の受け入れが盛んになった2013年ごろから急速に得票率が伸びている。

スウェーデンの右派政党であるスェーデン民主党の過去約10年間における選挙の得票率です。2006年の時点では約3%に過ぎなかったものが、移民の受け入れが盛んになった2013年ごろから急速に得票率が伸びている。
スウェーデンはここ数年にわたって移民がかなりの数で増え続けているのですが、2015年の一年だけで16万人を超える難民が入国している。人口約1000万の国が受け入れた難民が16万人というのはかなりの数字ですが、これを遂行した与党の社会民主党の連立政権が窮地に追い込まれ、右派野党のスウェーデン民主党が移民を年間3万人に減らすように要求、政府もこれを受け入れざるを得なかった。

スウェーデン議会の勢力図(議席数)   スウェーデンでは今年(2018年)9月に議会選挙が行われ、上のような議席配分となった。議会の総議席数は349で、第一党の社会民主党(100議席)が左翼党(28)、緑の党(16)と連立を組んではいるけれど、過半数(175)には及ばず、少数政権の状態になっている。「穏健」「中央」「キリスト教民主」「自由」の4党が「中道右派」と呼ばれている。注目されるのは第三の政党であるスウェーデン民主党です。ここに挙げられた政党の中でも最右派とされており、移民に反対する主張で第三の勢力にまで伸びている。選挙後にスウェーデン民主党が「中道右派」に社会民主労働党政権に反対する共同歩調を呼びかけたけれど断られている。

スウェーデン議会の勢力図(議席数)
スウェーデンでは今年(2018年)9月に議会選挙が行われ、上のような議席配分となった。議会の総議席数は349で、第一党の社会民主党(100議席)が左翼党(28)、緑の党(16)と連立を組んではいるけれど、過半数(175)には及ばず、少数政権の状態になっている。「穏健」「中央」「キリスト教民主」「自由」の4党が「中道右派」と呼ばれている。注目されるのは第三の政党であるスウェーデン民主党です。ここに挙げられた政党の中でも最右派とされており、移民に反対する主張で第三の勢力にまで伸びている。選挙後にスウェーデン民主党が「中道右派」に社会民主労働党政権に反対する共同歩調を呼びかけたけれど断られている。

スウェーデンでは今年(2018年)9月に議会選挙が行われ、上のような議席配分となった。議会の総議席数は349で、第一党の社会民主党(100議席)が左翼党(28)、緑の党(16)と連立を組んではいるけれど、過半数(175)には及ばず、少数政権の状態になっている。「穏健」「中央」「キリスト教民主」「自由」の4党が「中道右派」と呼ばれている。注目されるのは第三の政党であるスウェーデン民主党です。ここに挙げられた政党の中でも最右派とされており、移民に反対する主張で第三の勢力にまで伸びている。選挙後にスウェーデン民主党が「中道右派」に社会民主労働党政権に反対する共同歩調を呼びかけたけれど断られている。

現在のスウェーデン経済にとって最大の課題は技術労働力の不足で、ハイテク企業はそれなりの労働力が存在する英国やドイツに進出しようとする。マイケル・コタキスが主張するのは、いまのところ高等教育の恩恵に充分に浴していない移民たちの技術力の向上を図るということで、そうすることで移民がスウェーデン経済にとっての救いになる(Sweden’s salvation)というわけです。いまのところ長時間・低賃金労働という環境にある移民の若者にとって、将来の可能性を感じさせるのはオンラインによるITを中心にした技術教育です。さらに企業の側にも移民の労働力の積極的な採用も求められる。

これからのスウェーデン政府は、このような事実を国民に伝える必要がある。さもないと、これまで大いに称賛されてきた「北欧モデル」がゆっくりと空洞化の道を歩むことになってしまうだろう。
Future Swedish governments must communicate these facts to their citizens, or face the slow hollowing out of the much-vaunted Nordic model.

とコタキスは言っている。

2018年11月18日 up date

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