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国際問題コラム「世界の鼓動」

日英米、それぞれの「孤独」

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

 

mj406-lonlinesstop9月1日付のThe Economistが “Loneliness is a serious public-health problem“(孤独は深刻な公衆衛生上の問題だ)と題する特集記事を掲載しています。

孤独人間は単に悲しい存在というだけではない。不健康であり早死にもする。どうすればいいのか?
The lonely are not just sadder; they are unhealthier and die younger. What can be done?

という書き出しなのですが、記事の中心になっているのは、最近、同誌とカイザー家庭財団(Kaiser Family Foundation:KFF)というアメリカのNPOが、アメリカ、英国、日本の三国で行った意識調査です。

Loneliness and Social Isolation in the United States, the United Kingdom, and Japan: An International Survey 
米国・英国・日本における孤独と社会的孤立の意識調査

というタイトルで報告書が作られています。The Economistの記事も報告書も非常に長いものなので、むささびの独断でポイントと思われる部分だけ抜き出して紹介します。

孤独は伝染病?

そもそもThe Economistがなぜ今、このような調査に参加して記事を掲載することにしたのか?孤独(loneliness)がいわゆる先進国においてはほぼどこでも政策決定者にとっての関心事となっているからです。英国、デンマーク、オーストラリアなどでは孤独解消を目指すキャンペーンが盛んに行われているし、日本では「ひきこもり」(hikikomori)についての調査も行なわれている(「ひきこもり」は英文で“people who shut themselves in their homes”と説明されている)。アメリカでは軍医の最高位である”surgeon-general”という立場にあった人物が孤独を「伝染病」(epidemic)とまで呼んでいるし、英国では今年1月に孤独担当大臣までが誕生したり・・・というわけです。

「常に」または「頻繁に」

mj406-prevent-loneliness-isolationそれにしてもどの程度の数の人間が「孤独」を感じているのか?The Economistの調査には何人くらいの人間が参加したのかが書いていないのですが、いずれも成人で、「常に」(always)もしくは「頻繁に」(often)孤独を感じる人の割合は日英米では次のようになっている。

「常に」または「頻繁に」孤独を感じる

「常に」または「頻繁に」孤独を感じる

「孤独」(loneliness)というのをもう少し具体的に言うとleft out(仲間外れ)、isolated(孤立)、lack companionship(仲間がいない)などという言葉が使われている。ただ「孤独を感じる」と言っても程度がいろいろあって、深刻だ(major problem)という人は日英米ともに20人に一人という感じです。英米に比べると日本では一般的に孤独を感じるという人の割合はぐっと低いのですが、深刻に受け止めている人の割合は高いという数字が出ている。

近所付合いが苦手?

孤独であると感じるアメリカ人、英国人と日本人の間には、家族・友人・隣近所のような本来なら親しいはずの人間関係についての感覚の違いがある。英米人に比べると日本人はこれらの関係に不満を持っていることが多いのだそうです。特に英米と比べて目立つのは、日本人の隣近所との付き合いに関する抵抗感です。

人間関係のつまずき

人間関係のつまずき

接触の方法

家族や友人との接触を見るとさらに違いが顕著になる。常日頃から孤独を感じているとする英米人の場合、ほぼ半数以上が一週間に少なくとも2~3回は家族や友人と、直接もしくは電話で話をすると言っているのに対して、日本人の場合でそのような習慣を持っているのは20%にも満たない。

家族との接触(週2~3回)

家族との接触(週2~3回)

 

友人との接触(週2~3回)

友人との接触(週2~3回)

孤独の解消

普段から孤独を感じている人間は、どのようにしてそれを解消しているのか?下のグラフに出ている数字は必ずしも高齢者だけではないのですが、日英米とも似たようなやり方で孤独解消をはかっているのですね。一つだけ指摘しておくと、「昔の思い出に浸る」は英語では “Relive past memories” となっている。直訳すると「過去の思い出を追体験する」となる。例えば「旧友と交わる」とか「昔のアルバムを見て時間を過ごす」などの意味なのではないかと(むささびは)想像しています。いずれにしてもこのようにして過ごすのは日本人がいちばん多いのですね。

孤独解消の方法

孤独解消の方法

 

社会問題か個人の問題か

孤独や社会的孤立感の問題を「社会の問題」と考えるのか、あくまでも「個人の問題」と考えるのかについては、最も目立つのは「個人の問題」であるとする英国人の割合が日米に比べるとかなり低いということですが、英国人の場合はこれを社会問題として考える人がかなり多いのですね。

社会問題?個人の問題?

社会問題?個人の問題?

孤独・孤立が「社会問題」と捉える人がほぼ半数いるわけですが、現実の自分が孤独を感じるに至ったことについては「誰の責任」(who is to blame)だと考えるのか?日本人の場合、「自分の責任」という人間と「環境のせい」という人間が殆ど同じような割合でいるのに対して、英国人の場合は圧倒的に「環境のせい」とする意見が多く、「自分の責任」論は極端に少ないのが目立ちます。「環境のせい」とは「自分たち管理外の要因や環境」(Due to factors and circumstances beyond their control)という意味です。

孤独・孤立は誰の責任か?

孤独・孤立は誰の責任か?

 

宗教の役割

では、孤独の解消に主なる役割を担うべきなのは誰なのか?と問われると「本人もしくは家族」と答えるのが最も一般的なのですが、日本人と英国人の場合「政府」と答える人が6割を超えているのに対して、アメリカ人は極端に少ない。アメリカ人は孤独の解消は個人の領域であると考えているわけです。ただむささびがもう一つ注目するポイントが「宗教機関」と「NPO」の役割に期待する日本人の割合が英米に比べると低いということ。つまり「個人・家族」でも「政府」でもない機関に対する期待が英米では大きいということです。特に英米人の日常生活においては教会がそれなりの役割を担っているということ。日本では神社やお寺がそのような役割を果たしているとは思えない。

孤独解消の担い手は?

孤独解消の担い手は?

 

ロンドンにCares Familyという名前の組織があって、孤独解消のためのいろいろな活動を行っている。大体においてクイズ大会とか談笑の会のような行事なのですが、特徴的なのは会員の年齢層です。地元で生活する高齢者とロンドンを職場とする20~30才の若者が多い。創設者のアレックス・スミス(35才)によると、いま孤独・孤立を感じているのは年寄りだけではなく、若者たちも同じことなのだそうです。現在のところロンドンに2か所、マンチェスターとリバプールにそれぞれ1か所拠点を構えて参加者の「所属意識」(sense of belonging)の醸成を促進しています。

2018年9月18日 up date

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