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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
5月20日付のGuardianの社説の見出しは次のようになっています。
Brexit and the royal wedding: which is the real Britain?
「Brexitとロイヤル・ウェディング・・・どちらが本当の英国なのか?」というわけですよね。この二つの出来事が現代の英国を象徴している。Brexitが人種も含めた「他者」に門を閉ざそうとする英国の象徴であるとすると、ロイヤル・ウェディングは人種的な意味での開放性(racial inclusivity)を象徴するイベントであった、と。古い歴史を持った国はそれなりの道のりを経て現代に至っているのですが、
(あのロイヤル・ウェディングは)フェアな国としての英国を目指す長くて曲がりくねった道の中でも画期的な瞬間であった。
It was a milestone moment on that long and winding walk to a fairer Britain.
Guardianに言わせると、あの日の高揚感に溢れた行事(ロイヤル・ウェディング)が、Brexitによって完全に歪められ、分裂してしまったこの国で行われたという意味は重大である、と。これほどまでに異質の文化や人びとに開かれている国が、今や世界に向かって扉を閉めるのか、自信を持って世界とともに生きようとするのかという選択肢をめぐって痛々しくも分裂している、実に嘆かわしいというわけです。
この社説はもう一つ、隣国のアイルランドにおける分裂現象についても語っています。この場合は堕胎の合法化をめぐる分裂です。このむささびが出る頃には国民投票(5月25日)が行われて決着がついている。この社説が掲載された時点の世論調査では堕胎の合法化についての賛成意見が勝っているのですが、危機感を募らせる郡部アイルランドの人びとが大挙投票所に押しかけて反対票を投じる可能性もあると言われている。Brexitもトランプも「都会のエリート」に対する郡部の非インテリ層の怒りが爆発したものであり、アイルランドにおける堕胎の合法化も同じような運命を辿るかもしれない。
英国では堕胎は合法で、毎年ざっと3000人のアイルランド女性が堕胎手術のために英国へ来る。いまのところアイルランドも英国もEU加盟国だから国境はあってもないようなものなのですが、英国の離脱後にアイルランドとの国境がどのような性格を持つものになるのかはっきりしていない。場合によってはアイルランド女性が英国へ入国することが今ほど容易ではなくなる可能性もある。
アイルランドの作家、フィンタン・オツールによるとアイルランド人の堕胎に対するメンタリティは英国人のBrexitメンタリティと似ている。異なった背景を有する国々が一緒になろうとするEU、殆どの国で堕胎が合法化されているヨーロッパ・・・英国もアイルランドも、そのような「寛容なヨーロッパ」(permissive Europe)に対して自国の特殊性を主張する「誇り高き島国」(proud island nations) という図式です。Guardianに言わせるならば、それらはいずれも「昔ながらのファンタジー」(ancestral fantasy)ということになる。英国もアイルランドも近代化に向けて長い道のりを歩んでいるけれど
この長い道のりは決して直線的なものではないだろう。が、それが避けて通ることができない道のりであることは王子も人民も同じなのである。
The long walk will never be a straight line. But it is a journey that must be taken, by princes and peoples alike.
とこの社説は結ばれています。