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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
いまから2か月ほど前の東京新聞(9月20日)の【私説・論説室から】というセクションに『国民投票は操作される?』という記事が出ていました。岩波書店から出ている『メディアに操作される憲法改正国民投票』(本間龍著)という本に出ている事柄の紹介だったのですが、東京新聞の筆者(桐山桂一・論説委員)によると、日本における憲法改正の国民投票は
広告宣伝活動には投票日二週間前からのテレビCM放映禁止以外は規制がない。その結果、公平・公正であるべき投票運動が、青天井とも言える広告宣伝費の投入によって歪(ゆが)められる危険が大きいのだという。
と書いてある。桐山氏によると、自民党を中心とする改憲派の資金力は圧倒的なのだそうです。
「国民投票」ということで気になったのが、昨年(2016年)英国で行われたEU離脱をめぐる国民投票です。離脱・残留の両派が激しいPR合戦を展開したわけですが、その際の資金面での規制がどのようになっていたのか?
あの国民投票が実施されたのは2016年6月23日ですが、その約1年前に当時のキャメロン政府が国民投票に関する法案を議会に提出、これが “European Union Referendum Act 2015″(EUに関する国民投票法)として成立している。この国民投票法によると、2016年4月15日~6月23日(投票日)が「キャンペーン期間」であるとされ、キャンペーンで使われる資金の使い方に関する規制も謳われている。
キャンペーンも含めたこの国民投票は全て選挙管理委員会(Electoral Commission)の管理で行われたのですが、この委員会のサイト(2017年2月24日)にはキャンペーンのために使われた費用などが詳しく掲載されています。国民投票を行なうに当たっては、「残留」(Remain)および「離脱」(Leave)のリーダー組織が選挙管理委員会に登録・公認された。前者のリーダー組織は “The In Campaign Ltd”、後者のそれは “Vote Leave Ltd” という名前で登録され、それぞれの傘下に政党・市民団体などの組織が「選挙管理委員会公認団体」として参加したのですが、「残留」に63、「離脱」に60の機関や団体が登録された。つまり両方併せて123団体が公認組織としてキャンペーンを行ったことになる。
キャンペーン期間中に使われた経費についてですが、まず両派のリーダー組織にキャンペーン費用としてそれぞれ60万ポンドが国費から支払われた。また両派のリーダー組織およびその傘下にある政党に許された支出金額と実際に使った金額の両方が次のように記載されている。
登録組織による収入と支出:金額はポンド・概算 | ||
組織 | 支出上限 | 実際の支出 |
残留派 | ||
The In Campaign Ltd | 700万 | 680万 |
労働党 | 550万 | 490万 |
自民党 | 300万 | 220万 |
その他の政党 | 210万 | 16.5万 |
離脱派 | ||
Vote Leave Ltd | 700万 | 670万 |
英国独立党 | 400万 | 140万 |
民主連邦党 | 70万 | 43万 |
つまりリード組織である “The In Campaign Ltd” と “Vote Leave Ltd” はそれぞれ上限700万ポンドまでのお金を使うことを許されていたけれど、実際に使われたのは前者が680万ポンド、後者が670万ポンドということになる。政党についての支出上限金額は議席数に応じて決められたのですが、この中に保守党が入っていない。これは同党がEU加盟をめぐって分裂状態にあり、党として登録することをしなかったことが理由です。上記にプラスして個人・企業・組合・業界団体のような組織から寄せられた寄付金(ドネーション)なども合わせると、両派がキャンペーンのために費やした金額は、残留派が約1600万、離脱派が約1200万ポンドということになっている。日本の金銭感覚でいうと16億円と12億円という感じです。
キャンペーンのために使われた金額
で、最初にお話した日本の憲法改正に関する国民投票ですが、『メディアに操作される憲法改正国民投票』という本の著者である本間龍氏がネット・メディアのインタビューでかなり詳しく語っている。ヨーロッパなどに比べると、広報活動のためのお金については何の規制もないとのことで、特に次の個所が気になりました。
自民党は政党交付金が一番高額なうえに、バックには財界や日本会議、それに神社本庁など、財力のある団体がいます。
この発言にある「政党交付金」ですが、総務省のサイトに2016年度の政党交付金(議席数に応じて配分される)の受取額が次のように書かれている(いずれも概算)。
2016年度の政党交付金の額
共産党はこの交付金という制度そのものに反対しているので受け取っていない。2017年の衆議院選挙でいろいろと変わってしまったので、立憲民主党だの希望の党だのという政党がどの程度の交付金を貰うものなのか・・・。いずれにしても自民党が群を抜いていますよね。本間氏は改憲派が300億円から400億円くらいの広告費を確保すると見ている。これを使って徹底的にテレビ・コマーシャルを流す。一方の護憲派は「運動の中心となる政党すら決まっていないうえに、有力な集金母体もない」のだそうです。