NPO法人 アジア情報フォーラム

お仕事のご依頼・お問い合わせ

講演依頼、コラム執筆、国際交流企画など、ご相談は無料です

国際問題コラム「世界の鼓動」

BREXITは今:結局2年先送り!?

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

mj381-maytop9月22日(金曜日)、イタリアのフィレンツェで英国のメイ首相が、EU離脱(BREXIT)後の英国とEUの関係についての演説を行なったのですが、The Economistのブログによると、彼女の演説がケンカ腰ではなくソフト路線のように見えるところからEU側には歓迎されている。問題は英国内の世論、特に保守党内の強硬BREXIT派の意見をどこまでまとめることができるのか(The real problem could be her own party)ということのようであります。

mj381-theresa-may-florence英国のメディアでは殆ど毎日のようにBREXIT関連の話題が取り上げられているけれど、余りにもいろいろなことが報じられすぎていて、全体像がいまいちつかめないというのが正直な感想です。事実関係だけ確認しておくと・・・。

  • 2016年6月23日:EU離脱に関する国民投票。離脱支持が51.9%、残留支持が48.1%で、英国民は「離脱」を選択したことになった。
  • 2016年7月13日:国民投票を提唱したキャメロン首相が辞任して、キャメロン内閣にあって残留支持とみられていたティリーザ・メイ(内務大臣)が首相に就任。
  • 2017年3月29日:EUに対して「離脱」を正式通告、2019年3月末の「正式離脱」までの2年間にわたる離脱交渉が始まる。
  • 2017年6月8日:離脱に向けての地盤固めのつもりでメイ首相が打って出た選挙で、保守党は22もの議席を減らすという惨敗。強い支持基盤の上でEUとの交渉にあたりたいメイさんにとっては大きな誤算だった。

で、現在、英国とEUの間で離脱条件をめぐる交渉が行われている。例えば離脱後の人の往来制限、離脱に際してEU側が支払いを求めている「離脱費用」の額、英国領である北アイルランドとEU加盟国であるアイルランドの間の国境問題などなど・・・The Economistによると、「本質的に行き詰まり状態」(essentially stuck)にある。現状を一言で言うと離脱後にEUとどのような関係を保ちたいのかについての英国側の態度がいまいちはっきりしないことである、と。

mj381-maynewspaperheadlinesメイさんのフィレンツェ演説の中で、各メディアがこぞって取り上げたのが、2019年3月末の正式離脱から2年間を「移行期間」とするという提案だった。2019年3月に正式離脱して、4月1日から文字通り「域外国」になるというのでは貿易や企業関係の混乱が避けられない・・・だったら2年間(2021年3月まで)は現状のままにするという提案です。その間、英国は加盟国としての負担金を支払うし、加盟国の国民による往来もこれまでどおりだし、EU市場へのアクセスも加盟国と同じ扱いを受けることになる。但し英国が2019年3月をもってEU加盟国でなくなるという事情に変わりはないのだから、EUの決定事項に投票する資格はない。保守派(=離脱賛成)のThe Spectator誌などは

つまり英国は投票権のない加盟国であり続けるということだ。
In effect, Britain would be staying in the EU but as a non-voting member

と皮肉ったりしている。

EUと英国人
このグラフは英国社会研究所(Natcen)という機関が、昨年(2016年)のEU離脱に関する国民投票直前に行った世論調査の結果を示しています。年齢別のBREXITに対する態度を示しているのですが、EU離脱を支持している年齢層が55才~74才だけであることが明らかになっている。今からざっと30年前(1980年代中葉)のサッチャリズム全盛期に働き盛りを迎えていた人たちです。対照的に若い世代はほぼ6:4の割合でEUへの残留を望んでいる。

この研究所の調査では、全体として「残留:53%」vs「離脱:47%」で、残留派の方が多い。なのに実際には52% vs 48%で離脱派が勝っている。つまりこの調査に応じた若い層のかなりの部分が国民投票に行かなかったのではないか、とNatcenでは見ているわけです。それはともかく、どちらが勝ってもギリギリだったのだということが分かりますね。

EU側にはメイさんの演説を「一歩前進」として好意的に受け止める声が多いけれど、問題は保守党の内部です。「余りにもEUに対していい顔をしすぎる」(too generous to the EU)というわけで、メイおろしが本格化するかもしれない。ごく最近、あろうことか閣僚であるボリス・ジョンソン外相が、Daily Telegraph紙に4000語という膨大な長さのエッセイを寄稿、EUに対する強硬意見を披瀝して問題になったりしている。掲載のタイミングがメイさんのフィレンツェ演説の直前であっただけに、「ボリスは後部座席から運転手を操っている」(back seat driving)と批判する向きもある。

というわけで、日本と同じく、政局を語ることだけが大好きな英国のメディアにとって、英国時間の本日(10月1日)から4日までの日程でマンチェスターで開かれる保守党の年次総会が「稼ぎどころ」となるわけです。

2017年10月2日 up date

賛助会員受付中!

当NPOでは、運営をサポートしてくださる賛助会員様を募集しております。

詳しくはこちら
このページの一番上へ