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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
来週の日曜日(5月7日)のフランス大統領選挙の決選投票ですが、現在のところではエマヌエル・マクロン候補が有利とされていますよね。マクロン氏は親EUの若きリーダーで、ネットなどで読む範囲においては、「中道左派」という点で、いまからざっと20年前の英国に登場した若き労働党のリーダー、トニー・ブレアという感じでありますよね。
ファイナンシャル・タイムズのサイトに「エマヌエル・マクロンの登場がBREXITにとって何を意味するのか」(What Emmanuel Macron means for Brexit)という見出しの記事が出ています。書いたのはジェームズ・ブリッツという記者で、「マクロンが大統領になると、BREXITの交渉が多少面倒なことになる」(his election could make matters a good deal tougher for the British in Brexit talks)とのことであります。
まず、これはマクロン本人の意思とは関係ないけれど、彼が大統領になることで、昨年6月のBREXITに始まり、アメリカにおけるトランプの登場などに象徴される「ポピュリズムの波」に歯止めがかかるかもしれないということ。マクロンが勝ったというだけで、ヨーロッパを襲っているポピュリズムの波が止まるとは限らないけれど、BREXITの動きそのものがヨーロッパ各地に広がる反EU運動の一環だというのがBREXIT推進派の意識であったことは確かなことで、マクロン大統領の誕生はBREXIT推進派にとっては冷水を浴びせかけられるような思いにかられるものであることは間違いない。
マクロン自身が確信を持ったEU支持論者で、EUの加盟国であるということが何を意味するのかということについての自分自身の考え方を「古典的な考え方」(a classical view)と呼んでいる。彼によると、モノ、サービス、資本、人間の移動の自由は切り離して語れるものではない(indivisible)。「それについては譲るつもりは全くない」(I don’t want to accept any caveat or waiver)と語ったことがある。
つまりメイ政権がこれからEUと交渉する過程において「資本移動の自由は賛成だが、人間の移動の自由はイヤだ」などと言っても受け付けない、と。マクロンは昨年、EUを離れる英国について一切の特別扱いはしないと明言したことがある。「BREXITについては厳重な態度で臨む」(I am attached to a strict approach to Brexit)と言っている。
ブリッツ記者によると、マクロンはむしろBREXITをフランス経済のために利用しようとする可能性もある。つまり英国が離脱するのを機にヨーロッパにおける金融ビジネスの中心をパリに持ってこようとするということであり、有能な人材をフランスに呼び寄せるアイデアもあるのだそうです。
現在は選挙期間中であり、マクロンが実際に大統領になるかどうかは100%確実なところは分からない。さらに彼が大統領に就任した後にもEU離脱後の英国に対して厳しい態度で臨むかどうかはまだ分からない。対テロ対策のこともあって、英国とは外交・安全保障の点では緊密な関係を保つことを望んでいることは間違いない。
しかしながらマクロン氏の考え方の中核にあるものは変わらない。彼にとってはEUの力を維持することはフランスと英国の経済関係を強化する以上に重要なことである。そのような世界観自体は容易には変わらないだろう。
But Mr Macron’s core philosophy is not in doubt. He believes that maintaining the strength of the EU is more important than boosting France’s economic ties with the British. That world view will not change easily.
というのがブリッツ記者の結論です。