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国際問題コラム「世界の鼓動」

「それでもグローバル化は正しい」

賛助会員 春海 二郎

(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)

BREXITやトランプ現象が「グローバル化に取り残された労働者階級による怒りの表れ」という言い方が日本であれ、欧米であれ、メディアの間では殆ど流行語のようになっていますよね。まるでグローバル化が諸悪の根源であるかのようであります。でもモノの輸出入や人間の往来について極力国境を低くしようとする「グローバル化」はそんなに悪いものなのか?この際、グローバル化の旗振り役とも言えるthe Economistの言い分を紹介しておきます。

アメリカの大統領選の投票が行われる約1か月前10月1日付の同誌に掲載された “Anti-globalists: Why they’re wrong”(反グローバル化論が誤りである理由)という社説のイントロは次のようになっています。

反グローバル化論者たちは、グローバル化が一握りのエリートたちだけに利益をもたらすものであると批判する。しかし実際には閉鎖的な世界で最も傷つくのは貧困層なのだ。
Globalisation’s critics say it benefits only the elite. In fact, a less open world would hurt the poor most of all.

社説はまず、戦後の世界における生活水準の向上について触れ、それが自由貿易がもたらしたものである(underpinned by an explosion in world trade)ことは疑いの余地がない、と主張します。1950年当時、製品輸出は世界のGDPの8%を占めるに過ぎなかったが、2000年にはこれが20%にまで達しているではないか。製品輸出や外国からの投資が(例えば)中国における貧困を劇的に減らしたし、アイルランドや韓国の経済も自由貿易のおかげで発展をとげたことは間違いない、と。

欧米人の中には中国やインドのような国の経済がいくら発展しても、自分たちの生活がよくならないのでは意味がないと感じる人も多い。しかし自由貿易のおかげで国内的にも得をしていることは否定のしようがない。輸出関連企業と国内市場のみを相手にしている企業を比較すると、前者の方が生産性も高いし給料もいい。アメリカの輸出の半数は、自由貿易協定を結んでいる国向けのものなのだ。これらの国々のGDPは、地球全体のそれの10分の1以下であるにも拘わらずアメリカの輸出企業は彼らとの自由貿易で繁栄している部分も大いにあるというわけであります。

The Economistによると、保護主義は国内の消費者を傷つけ、労働者にとっていいことは殆ど何もない。世界の40か国で行われた調査によると、国境を超えた貿易が停止された場合、世界の最富裕層は28%の購買力を失う一方で、ボトム10%の最貧困層の購買力は63%もダウンするのだそうです。2009年にオバマ大統領が中国製のタイヤに反ダンピング税を課して国内企業の保護を行なったことがあるけれど、それによって高いタイヤを買わされたアメリカの消費者が被った損害は11億ドルであるとされている。このことによって1200の職場が救われたことになっているけれど、11億ドルを1200で割ると90万ドル。つまりアメリカの消費者は、雇用1件を確保するために90万ドルというお金を支払わされたことになる。
貿易のみならず、人間の行き来のために国境を極力オープンにしておくことの利点も忘れるべきではない、とThe Economistは指摘します。BREXITで問題になった移民問題ですが、移民の受け入れは移民たちのみならず受入国の経済にも大きな利益をもたらすと言います。英国の場合、2000年からこれまでに受け入れたヨーロッパ移民によって収められた税金の額を計算すると、国庫収入が200億ポンド増えたことになる。さらに外国企業による投資受け入れはその国における競争を刺激し、技術開発も促進する。

ではグローバル化には何も問題がないということなのか?もちろん問題はある。グローバル化によって潤う業界(勝ち組)と衰退せざるを得ないような産業(負け組)があり、これまでのところでは「負け組」に対するケアが足りなさすぎたということがあるかも知れない。1999~2011年、アメリカの製造産業で失われた職場は600万件、その5分の1が中国との競争(即ち自由貿易)の結果によるものなのだそうです。さらに英国ではEU加盟国からの移民の増加によって職を奪われる人たちがいることは事実には違いない。にも拘わらず「負け組」を救済する政策が充分であるとは言えない部分がある。例えばアメリカの場合、失業者の職業訓練などに使われる税金はGDPの0.1%、先進国平均の6分の1にすぎない。
しかし・・・The Economistの社説は、グローバル化の「置いてきぼり」をくっている人びとに対するケアが足りなかったということはあるにせよ、開放経済と閉鎖経済を比べれば、前者の方が人間の生活を豊かにすることは間違いないとして、

1840年代の昔から自由貿易主義者たちは、閉鎖経済は権力者に味方し、労働者階級を痛めつけるものであると信じてきた。彼らはその当時は正しかったし、いまでも正しいのである。
Since the 1840s, free-traders have believed that closed economies favour the powerful and hurt the labouring classes. They were right then. They are right now.

というわけで、グローバル化に「背を向ける」(to turn their backs on globalisation)のは最悪の選択だと強調しています。

2016年12月12日 up date

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