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賛助会員 春海 二郎
(筆者は長年、在日イギリス大使館に勤務し、イギリス関係情報を独自に発信するサイト「むささびジャーナル」の運営をしている)
「ソーシャルキャピタル」(social capital)という言葉、聞いたことあります?むささびは知りませんでした。ネットによると「社会関係資本」などと訳されるらしいのですが、それぞれの社会を構成する人と人とのネットワークや信頼関係の強さを表す言葉のようです。英国の統計局(Office for National Statistics)のサイトには
「ソーシャルキャピタル」は個人、コミュニティ、国の健全さを高めるために重要なものである。
Social capital is important for the well-being of individuals, communities and nations.
と書いてあって、社会を構成する人びとがどの程度の「公共精神」(civic mind)やお互いに対する寛容さ(tolerance)、信頼感(trust)を有しているかによって、「ソーシャルキャピタル」の高さが計られる。例えば下のグラフにある「隣近所は信用できる」の72%は高いのか低いのか?「殆ど常に孤独を感じる」の11%は社会としてどのように考えるべきなのか?
一昨年あたり英国メディアの間で、「英国はさびしさの都」(Britain is the capital of loneliness)という言葉が流行ったことがある。統計局がソーシャル・キャピタルについてのいろいろな数字を発表する中で、英国がEU諸国の中でもかなり際立って人間関係が希薄であるということを表現するのにこのような見出しが使われたわけです。
例えば2014年6月18日付のDaily Mailのサイトが「さびしい英国」(Lonely Britain)を象徴するような数字を挙げている。例えば「困ったときに助けを求めることができる友人や親せきが少なくとも一人はいる」という人の割合が88.7%で、EU28か国中、下から3番目という数字がある。英国より下だったのはデンマーク(88.1%)とフランス(86.1%)だった。トップ3はスロバキア(98.8%)、リトアニア(96.9%)、スペイン(96.8%)だった。つまり頼りになる人間関係を有していると思っている人がスロバキアの場合は100人中ほぼ99人であるのに対して英国の場合は約89人ということです。「99対89」という風に見ると大した差でもないように思えるけれど、100人中11人がその種の知り合いが「全くいない」と考えていると見ると確かに深刻な数字ではある。
もう一つDaily Mailが挙げているのは「隣近所に親しみを感じるか?」(Do you feel close to people in the local area?)という調査。EUの加盟国を対象にした調査だったのですが、これに「感じる」と答えた英国人は58.4%だった。これは最下位のドイツ(58.3%)の一つだけ上という数字。トップ3はというと、キプロス(80.8%)、ルーマニア(79.9%)、クロアチア(78.8%)となっている。つまり英国やドイツはお隣さんとの付き合いは希薄である、と。
ただ同じような調査でもOECD加盟国にまで範囲を広げると、英国は「さびしさの都」とレッテルを張られるような存在ではない。「困ったときに頼れる友人」にしても「生活満足度」」にしても、一応OECDの平均を上回っている。