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国際問題コラム「世界の鼓動」

シリーズ・海外渡航と医療⑥

身体的搭乗許可条件――持病のある方

五味 秀穂 (財)航空医学研究センター所長

五味 秀穂
(財)航空医学研究センター所長

前回は機内での急病人の発生状況についてお話ししました。このように機内で体調を崩さない、また重篤にならないために、今回は飛行機への搭乗許可条件についてお話しします。

世界の航空会社はそれぞれの会社で搭乗許可条件を設定しています。しかし基本的にはWHO(世界保健機構)が発行している「Travel and Health」に記載されている搭乗許可条件を参考にし、それに基づいて作成しています。別表にその「Travel and Health」の許可条件の和訳を示します。

Travel and Health 和訳 ←こちらをクリックすると搭乗許可条件の和訳が表示されます

これに基づいた各航空会社の搭乗許可条件は、会社によって若干異なりますので注意して下さい。各航空会社のHPをご覧になって頂くと、通常その航空会社の搭乗条件が記されていますので、これを参考にして下さい。

WHOでは特に規定していない感染症についても各社において規制されており、これによって制限されることもご承知下さい。機内の換気システムによって飛行機全体に感染が拡散される可能性は殆んどありませんが(HEPAフイルターを搭載し空気清浄を行っている)、飛沫感染による感染の直接拡大は防げないからです。

感染症以外では、循環器疾患や呼吸器疾患が注意を要することになると思います。機内環境の変化については以前お話ししたように、

① 気圧の低下(0.7-0.8気圧に)

② 気圧の低下に伴う酸素濃度の低下

③ 湿度の低下(約10-20%まで)

の3つの変化が起きてきます。

故にこれによってより悪化する可能性のある狭心症などの虚血性心疾患、重篤な呼吸器疾患、重篤な貧血、頭蓋内圧亢進状態、耳鼻科的疾患など、さらに最近大きな手術を受けた方などは要注意です。

またメンタル的な疾患の治療中の場合、付添の必要性の有無や、周囲に対する影響等で鎮静させての搭乗が必要かなど、細かなケアーが必要になってきます。特に閉所恐怖症やパニック発作の場合は慎重にならざるを得ません。是非メンタル的疾患に罹患している場合は航空会社に相談し、搭乗の可否を慎重に決めて下さい。

前回お話しした出産間際の搭乗も、通常は36週以後は避けるべきとなっています。またスキューバダイビングを行った場合、その後24時間以内は搭乗を避けて下さい。これは水圧により体内に溶け込んだ窒素(主に脂肪組織に溶け込む)が、減圧と共に血管内に気泡となって集まってくるため、空気栓塞をおこしてしまうからです。

航空会社のHPといっても分かりにくいことが多いので、1例として全日空のHPについて説明致します。

まず全日空のHPを開けて頂き、下記要領で進んで下さい。

トップページ右側中頃「お手伝いが必要な方 」

「おからだの不自由なお客様のご相談やご希望を伺います」

「病気やけがをされているお客様へ」

「診断書・参考資料」(この参考資料の中に搭乗許可条件があります)

 

また搭乗可能か悩まれた場合は、各航空会社の窓口に問い合わせてください。

しかし病気があっても搭乗を初めから諦める必要はなく、航空会社指定の診断書に主治医からの意見を書き込んで頂き、航空会社に提出すれば判断してくれます。またその際に搭乗可能の場合のサポート体制(医療器具や医師の同乗の必要性など)についてもアドバイスして貰えます。この航空会社提出用の診断書もHPからダウンロードできます。全日空の場合は上記のステップで最後までいき、そこで「診断書」に入って頂ければ出てきます。

また搭乗の可否判断とは別に、もし慢性疾患で治療を受けておられるような方は、ご自分のために「英文の診断書」を持参されると良いと思います。英語の医療用語を使いこなすのは大変ですし、何かあった時には大いに役立ちますので、現在かかっておられる主治医の先生に作成して貰いましょう。

この英文の診断書の雛形は、インターネットで探すとかなりたくさん見つけられます。渡航医学関係のサイトを探し(例えば「海外医療支援協会」)、「英文診断書」で入っていけばダウンロードできる雛形を見つけられると思います。

外国に入国の際、薬などが見つかって説明を求められる場合がありますので、その時にも英文診断書は必要と思います。覚醒剤や麻薬と勘違いされると面倒なことになりますので、注意して下さい。

また糖尿病で治療中の方の「糖尿病手帳」も、英語版がありますので、そこに記載して貰って持参するのが良いと思われます。

航空機は今や大変身近な乗り物となり、慢性疾患を持つ患者さんのQOL(Quality of Life)向上のためにも海外に出ていって頂くことは我々の望むところでもあります。しかしひとたび機内で体調を崩されて飛行機が出発地へ戻ったり、他の空港に緊急着陸などを行った場合、他のお客様にも大変迷惑がかかりますし、航空会社にとってもつらいこととなります。ご本人のためにも、また他の乗客の方のためにも、航空機搭乗許可条件を一度ご覧になっておいて頂けたらと思います。

2015年12月27日 up date

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